時節柄、天候系の災害ニュースが増えています。特に水害の被害が大きく、そのなかでは知ってさえいれば命が助かった、というケースもあります。本稿では「もし車中で水害にあって閉じ込められた場合の脱出方法」をお知らせします。
クルマは電化製品であり、水に浸かればしばらくすると動かなくなります。そんなときどうすればよいか。元自衛隊の医療職であり、東日本大震災のときに救援活動に従事した著者に聞きました。
文/照井資規(元陸上自衛隊衛生官)
写真/照井資規、AdobeStock(アイキャッチ写真:Adobe Stock@あんころもち(ankomando))
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■帰宅中に突然の増水に遭うことも
2019年10月、東日本各地に甚大な被害をもたらした台風19号(12日)、21号(25日)の影響で亡くなった103人のうち、水害の犠牲者は72人である。その約70%に相当する50人が屋外で被災しており、その中の60%である30人は車での移動中であったため、「車中死」と報じられた(毎日新聞19年11月11日)。
その報道によれば、車中死した人のなかで、判明している主な行動の内訳は、帰宅途中が7人、避難中が7人、仕事・作業中が3人、外の様子を見に行くが2人だったという。
(海からの津波ではなく川の増水などによる)淡水への車体の水没は、電気を通しやすい海水中に車体の電気系統が浸かる「ショート」による発火のおそれはないものの、密閉性が高く浸水に時間がかかる車内で、「まだ、大丈夫」と思っている間に、車体周囲の水位が上がり、車内から脱出できなくなってしまうおそれがある。
■水没車両からの脱出
「水深とドアを開けるために必要な力の関係」(図1)にあるように、2014年に日本自動車連盟(JAF)が行ったユーザーテストでは、水深60cmの水没状態では、セダン型乗用車の運転席ドアを開けるためには20kg近い力が必要であることが判明した。
外から乗用車のドアを開けるのであれば、両手でハンドルを持ち体重を利用して開けることができるが、乗車中の車内からドアを開ける体勢から20kgの力を出すことは容易なことではない。ミニバン後席スライドドアでは50kg以上の力が必要となる。
図「水圧と自動車ドア開閉」(図2)のとおり、車外と車内の水圧の差が小さくならない限り、ドアは容易には開けられない。
最近の乗用車は密閉性が高いため、車内に浸水するまでに時間がかかる。水没しても車内に水が侵入してこないと安心している間に、車外の水位が車体の天井近くに達してしまいドアを開けられなくなり脱出のチャンスを逃してしまうおそれがあるのだ。
乗用車が天井まで水中に没してしまったならば、車内の水位が天井近くに達するまで人の力でドアを開けることはできない。車内の水位が天井近くに達するまで辛抱強く待ち、最後に残った天井近くに残った空気を吸って潜りドアを開けて脱出することもできるが、泳ぐことができて、専門の訓練を受けたことがある人ではない限り、このような脱出はとてもできないであろう。
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