平成の名車 25年早かった…日産ラシーンはどう生まれ、なぜ消えたのか

平成の名車 25年早かった…日産ラシーンはどう生まれ、なぜ消えたのか

 たった6年間しか生産されていなかったにもかかわらず、いまでも専門店があるほど、ファンから支持されているクルマ、日産「ラシーン」。すでに絶版から20年。しかし価値は落ちるどころか、むしろ上がっている。

 現在これほど人気のあるクルマが、なぜたった6年で消えてしまったのか。ラシーンというクルマを、その登場の背景と共に、解説していこう。

文:吉川賢一
写真:NISSAN

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クロスオーバーSUVの先駆車「ラシーン」

 1994年12月に誕生したラシーン。1993年(平成5年)の東京モーターショーで参考出品された試作車が話題となったことで、市販されたクルマだ。

 進路を測る「羅針盤」に由来する車名をもつラシーンは、こう見えて、サスペンションは四輪独立懸架、かつ4WDのみ、というタフな設定。クロカンほどの走破性はないものの、昨今のSUV風味のクルマよりも本格的なメカニズムであり、非常に良く走るクロスオーバーSUVとして登場した。

こう見えて4WDかつ4独サスという、意外と凝ったメカニズムのラシーン。昨今のSUV風味のクルマよりも本格的だった
こう見えて4WDかつ4独サスという、意外と凝ったメカニズムのラシーン。昨今のSUV風味のクルマよりも本格的だった

 クロスオーバーSUVといえば、ホンダヴェゼルや、トヨタヤリスクロスなど、いま世界的にも最もアツいカテゴリだ。クロスオーバーSUVの先駆車といわれるクルマはいくつかあるが、「クロカン風味を楽しみつつ、街中で使いやすいクルマに仕立てた」という意味では、このラシーンや、同年に発売された初代トヨタRAV4あたりが先駆車だったのではないだろうか。

 しかしながら、よりSUVらしかったRAV4に対し、若干穏やかな雰囲気であったラシーンは、ジープやパジェロといった本格派がもてはやされていた90年代では「ライト過ぎ」に見えたのだろう。さほど人気が出ず、2000年にその生涯を終えることとなってしまった。

チェックのシート柄、独立式のメーターパネルなど、シンプルなインパネなど、タイムレスなデザインはいま見てもカッコいい
チェックのシート柄、独立式のメーターパネルなど、シンプルなインパネなど、タイムレスなデザインはいま見てもカッコいい

道具としての機能をオシャレに追及

 ラシーンが登場した1994年といえば、バブル崩壊から数年が経ち、それまでのゴージャス志向からの離脱が始まったころ。「高価なものほど正義」という志向から、より「自分らしいもの、飽きのこないシンプルなもの」を求めるという、新しい価値観が芽生えてきたころだ。あの「無印良品」が台頭してきたのも、ちょうどこのころ。道具としての機能を追求することで、より便利で豊かな暮らしが求められ始めていた。

 そんな時代の流れを汲んで登場したラシーン。無駄のないあっさりとしたデザインのボディに、当時、サニーやパルサーで使用していた部品を多く活用。実用的な四輪独立懸架、かつ4WDを実現したことで、雪道など、道路事情を考えることなくスイスイ走ることができた。

 当時のクルマといえば、車高が低いことがカッコいいとされるセダンや、とにかくデカくてごついクロカンが人気の中心であったなかで、ちょっとだけ車高が高くて、タイヤもちょっとだけ大きい、前後のオーバーハングが短いラシーンは、かなり斬新であり、この新しい価値観に共感する人たちからは、当時も熱烈に支持されていた。

無駄のないあっさりとしたデザインながら、道具としての機能が素晴らしく高かった
無駄のないあっさりとしたデザインながら、道具としての機能が素晴らしく高かった

 余談だが、以前、日産の実験部のなかで、代々受け継がれているラシーンがあった。新車開発を担当していた実験部のテストドライバーのひとりが、ラシーンのMT車を購入し、それをキビキビとした、自分好みの走りにカスタム。開発のなかでは、さまざまなバランスをとる必要があってできなかったことを実現し、楽しんでいたそうだ。

 そのラシーンをその後、その方の後輩に譲り、それが代々、実験部の若手のなかで受け継がれていた。筆者の後輩が譲り受けた際、乗らせていただいたが、とにかく軽くてよく曲がり、気持ちがよかったことを覚えている。シンプルな外観ではあったが、「道具」としての機能は、素晴らしく高かった。

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