マツダが今、「CLASSIC MAZDA」として初代ロードスターのレストアとFC型&FD型RX-7の復刻パーツを供給する取り組みを行っている。そこで、実際にFDオーナーとしてその取り組みに対する思い、そして実際にロータリー再生工場の現場を見学してどう思ったか、さらに今後マツダからロータリーの復活は果たしてあるのかどうか、についてFD型RX-7を今なお所有する自動車ライター、渡辺敏史が思いの丈を吐露する。
文/渡辺敏史、写真/ベストカー編集部、マツダ、渡辺敏史
【画像ギャラリー】ロータリーの灯は絶対に消さない!マツダの意地と熱き想いを知る!!
■現在もマツダから「ロータリー」の火は消えていなかった!
マツダが1991年に日本メーカーとして初のル・マン総合優勝を勝ち取ってから、今年でちょうど30年。目を瞑れば、787Bが搭載するロータリーユニット、R26Bから放たれる生き物がかったあのハイトーンサウンドが蘇る……という方もいらっしゃることだろう。
その年、91年に発売されたFD3S型RX−7は02年に販売終了。そして03年、その後を受け継ぐように発売されたSE3P型RX−8は12年に販売終了……と、それ以降、マツダのラインナップにロータリーユニットを搭載するクルマはない。
が、その間も、というか今この時も、マツダではロータリーの火は消えていない。そんな話がマツダのWebサイトにあがったのはこの6月の話だ。NA型ロードスターやFC&FD型RX−7の部品復刻、そしてNA6C初代ユーノスロードスターのレストアサービスなどを手がけるクラシックマツダ部門が作ったそのページには、今も生産を続けるロータリーエンジンの部品、そしてベアエンジンの組み上げの様子が記されていた。
■「クラシックマツダ部門」はマツダ本社工場の一角にあった
その現場を取材すべく段取りを組み、マツダの広島本社を訪れると、受付を通り抜けてその奥に広がる本社工場の一角に招かれた。感覚的には9階建ての本社ビルと目と鼻の先にある発動機A号棟は1934年から操業を開始、戦中〜戦後を通してマツダの悲喜こもごもを見つめてきたここは、広島にとっても特別な場所であるだろう。
かつてのロータリーエンジン生産拠点だった宇品工場から移ってきたこの場所に収まる工機類は、生産最盛期の73年前後に導入されたものだ。察しのいい方であれば、その直後にオイルショックや環境性能強化などの大波が自動車業界に襲いかかったのはおわかりだろう。小型軽量にして高性能を引き出せるロータリーへのシフトを狙っての拡大投資が、その後のマツダの経営に大きな足枷となったのもご存じのとおりだ。
年季の入ったこの工機類を今もこまめにメンテナンスしながら補修用部品を生産し続ける、その最大の理由は、工機メーカーにとってもマツダにとっても、唯一無二であるロータリーに対しての投資は負荷が大きすぎるということだろう。
でも結果的に、手練れの工員が毎朝ごとに微細に点検、調律しながら動かすこの工機が生み出す部品の質が、最新の工機がプログラムに準じて生み出すそれよりもむしろ優れているのではないだろうか。そう見えてしまうのは個人的にかれこれ20年以上ロータリーを所有するがゆえの贔屓目かもしれない。
■現在は年間200基前後のエンジンを3人のエキスパートによって組み上げている
が、これら部品生産の工機が並ぶ傍らにあるベアエンジンのブースを見て、その想いはいっそう強くなってしまった。目測で30〜40m四方という感じだろうか、コンパクトにまとめられた組み立て工程では現在3人のエキスパートが、年間にして200基前後のベアエンジンを組み上げている。
基本は世界のディーラーでのエンジン換装のニーズに応えるもので、型式は2ローターの13B、つまり車体の現存数が多いRX−7やRX−8などのニーズに対応している。
このブースで組み立てに携わるためには、たとえレシプロエンジンの経験が豊富だったとしても、RE組立訓練場と称する約1年のプログラムで、座学から現場補佐までをみっちりとこなさなければならないという。
工程を流れ作業ではなく、ひとりで完結させるセル生産を採るその様子は、AMGの言葉を借りるなら徹頭徹尾のワンマン・ワンエンジン。ローターやハウジングに組み込まれるシール類の嵌め込みのテンションや、ロータリーならではの部品であるエキセントリックシャフト、ハウジングの組み込みなどをすべてひとりでこなす、その工程にはタクトのような時程管理も存在しない。
代わりにあるのは絶対に既定値は外さないという工員の力加減や指感覚だ。もちろん要所の検査には測定機器のチェックが入り、全数がそれを通して品質管理されている。とはいえ、プロがプロの仕事を淡々と果たすことによっておのずと目標が満たされる、匠の阿吽こそがタクトだということが見るからに伝わってくる。
■唯一のロータリーエンジン継承のためユニット生産を継続するマツダの意地
マツダの調べによると、現在のロータリーユニット搭載車の国内登録台数は約5万3000台。うち、RX−8は52%、FD型RX−7は28.2%、と8割以上を占めている。かぎられたリソースのなかで新車開発生産に影響を与えず事業を継続させる、すなわち赤字化させないという大前提がクラシックマツダの事業では求められるなか、まずできることとして、FC型も含めた13B搭載のRX−7を文化継承の糧にしたいという思惑も窺える。
これは私見だが、クルマ作りは商売として捉えると、まぁ心底大風呂敷すぎて面倒くさいものだと思う。開発工数や部品点数はおびただしく、作るものが大きいがゆえ比例して占める地べたも大きく、関わる人数も多く、挙句の果てに利益率は10%も出れば上々……と、今どきまるでスマートではないものだから、傍から見ればBEVシフトをきっかけに産業構造が変わってボロ儲けできるんじゃないかと測られるフシもある。
そういう方向から物事を判断する面々には、製造責任も果たした旧いエンジニアの部品をなぜ供給し続けなければならないかはわからないだろう。でも、クルマと人との間には、動いてもらわなければ生活が滞るという実務的な関係もあれば、一生乗り続けたいという恋愛的な関係もある。
■間接的ながらクルマの動力としてロータリーが復活する可能性を今は待とう!
命を預けるものだからこその安心安全、だからこそ芽生える特別な愛着、どちらの想いも重いことをクルマ作りに携わる人々はよく知っているから、そこに商売では割り切れない最大限の配慮を払おうとするわけだ。と、そこに加わるのが、ロータリーの火は絶対に灯し続けるというマツダの意地である。
世の趨勢からからみれば、ロータリーを直接駆動力とするクルマの登場は難しい方向へと向かっていることは間違いない。が、その特性を活かしたハイブリッドやレンジエクステンダーの開発は進められていると聞く。形は違えど、それを動力源とするクルマが活き続けることを、クルマ好きとしては慮りたい。
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