■ブランディングの失敗? レジェンドが消えざるを得なかった理由
日本市場では若干の空白期間もありましたが、それでも都合36年にわたって作り続けられたホンダ レジェンドが、あっけなく生産終了となってしまう理由。
それは、例によっての「セダン人気の凋落」や、それに伴う「ブランドおよび生産体制の整理のため」ということでしょうし、各方面から手ひどく批判された5代目レジェンドの「デザインのマズさ」も、息の根を止めるタイミングを早めたのかもしれません。
しかしそれら以上に根本的な理由となったのは、「レジェンドはブランディングに成功できなかったから」にほかならないと、筆者は考えます。
安い商品、例えば台所で使う洗剤などは「機能の良し悪し」によって選ばれます。また同時に「値段が安いから」とか、「ただなんとなく」といった理由でも選ばれるのが、洗剤などの低価格なプロダクトです。
しかしモノというのは単価が高くなればなるほど、「機能」や「値段」はあまり重要ではなくなってきます。いやもちろん高価格帯の商品であっても、機能性や、競合と比しての価格優位性も重要ではあるのですが、「絶対に重要」というわけでもなくなるのです。
高価格商品にとってもっとも必要なものは「ブランド」です。
そしてブランドとは何かといえば、「それを買えば(それを使えば、そこに行けば)、100%確実に○×という高い機能や、良い気分が味わえるだろう」という信頼または約束です。
高級な車で言うと、日本ではレクサス ISよりもBMW 3シリーズのほうが圧倒的によく売れるわけですが、その理由は「3シリーズの機能がISより圧倒的に優れているから」ではありません。両者の機能など、広い視点で見ればほぼ同等です。場合によってはISのほうが上な部分もあるでしょう。
しかしBMWには「BMWの車を買えば、○×な機能や気分を絶対に味わえるはず」という信頼=ブランドがあります。
それは幻想かもしれませんが、仮に幻想であったとしてもいいのです。消費者が「裏切られた!」と思わない限り、企業が長い時間をかけて作り上げた「ブランド」は機能するのです(※その代わり、企業が消費者の信頼を裏切るようなことをすると=約束を反故にすると、ブランドはあっけなく崩壊します)。
で、ひるがえってホンダ レジェンドです。
歴代ホンダ レジェンドのブランド、つまり「レジェンドを買えば、○×という機能や、△□という良い気分を絶対に味わえる」という一文が合った場合、○×や△□に入るべきフレーズは何でしょうか?
「フラッグシップサルーンでありながらスポーティである」というのはあるかもしれませんが、そこを含めてやや茫漠としており、世代によって個性も異なるため、「これぞ!」という答えを出すことができません。またデザインにも一貫性がないため、「レジェンドといえばこのカタチ!」という像も浮かびません。
そんな高額品が、つまりブランディングができていない高額商品が、売れるはずがないのです。
しかし、この点においてホンダ レジェンドのみを責めるのは卑怯というものでしょう。
なぜならば、日本のラグジュアリーサルーンにおいては、筆者が知る限りでは「トヨタ クラウン」以外のすべてが、ブランディングに(今のところ)失敗しているように思えるからです。
ホンダ レジェンドの失敗は「レジェンドのせい」という部分ももちろんあるのでしょう。
しかし根本的には、「高額な商品=ブランドが必要になるプロダクトを作り続けるのは、決して簡単な仕事ではないから」といった理由に収斂されるべき話なのです。
■ホンダ アコード レジェンド(5代目) 主要諸元
・全長×全幅×全高:5030mm×1890mm×1480mm
・ホイールベース:2850mm
・車重:2030kg
・エンジン:V型6気筒SOHC+モーター、3471cc
・最高出力:314ps/6500rpm
・最大トルク:37.8kgm/4700rpm
・燃費:12.4km/L(WLTCモード)
・価格:1100万円(2021年式 Hybrid EX・Honda SENSING Elite)
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