昔から日本の自動車雑誌の定番企画といえば、『日本車vs欧州車』。特にドイツ車とはよく比較されてきた。
たしかにドイツは自動車先進国だし、日本の車開発はドイツ車に追いつけ追い越せでやってきた部分もある。
しかしメディアで日本車とドイツ車を比べる理由はどうやらほかにもあるようだ。渡辺陽一郎氏がメディア側の視点で考察する。
文/渡辺陽一郎、写真/フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ
■なぜ日本車はドイツ車と比べられてきたのか
クルマを扱うウェブサイトや雑誌では、日本車と、ドイツ車を中心とした欧州車を比べることがある。このような「日本車VS欧州車」の図式は、少なくとも1970年代の自動車雑誌では行われていた。企画立案の背景には、複数の理由があった。
まず1車種だけの試乗記が行き詰まったことだ。1970年代に入ると車種の数も多くなり、クルマを買う時に、ライバル車と比べて選ぶユーザーも増えた。そこで日本車を含めて「比較試乗記」を掲載するようになった。
1975年に初代VW(フォルクスワーゲン)ゴルフの輸入を開始した頃からは、輸入車が次第に身近な存在になっていく。1970年の輸入乗用車の登録台数は約1万7000台だったが、1975年には4万3000台に増えて、1979年には6万台に達した。
そうなると自動車雑誌も欧州車を積極的に取り上げるが、今に比べると輸入車がマイナーな時代だから、1車種だけの試乗記では評価が分かりにくい。そこで比較対象として身近な日本車が引き合いに出された。「日本車VS欧州車」の比較試乗記が始まったわけだ。
しかし当時の日本車と欧州車を比べると、今と違って優劣の差が激しかった。話を分かりやすくするために欧州車をドイツ車に置き換えると、走行安定性、乗り心地、シートの座り心地の3点についてはドイツ車の圧勝であった。
ドイツでは昔から日常的に高速走行の機会が多く、走行安定性が低ければ、交通事故を発生させやすい危険なクルマになってしまう。そこでボディとサスペンションをしっかりと造り込んだ。
シートも同様で、この造りが悪ければ、着座姿勢が乱れやすく走行安定性も悪化させる。長時間の運転では、腰痛や強い疲労を引き起こすから、これも危険なクルマになる。そこでシートも入念に造り込んだ。
ドイツ車の乗り心地については、車種によっては低速域で硬く感じたが、不快に揺すられたり突き上げる印象はなかった。走行安定性と同様、ボディをしっかりと造り込んでサスペンションを滑らかに伸縮させたから、乗り心地も向上した。
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