追いつけ、追い越せ!? 何十年も国産車がドイツ車と比べられるナゼ

■日本車のほうが優れていた部分もあった?

さすがのドイツ車も『すべての面で快適』とはいかなかった。当時のドイツ車はエンジンノイズが大きく、ゴルフも写真の3代目までは電動ファンが耳障りな音をたてていた
さすがのドイツ車も『すべての面で快適』とはいかなかった。当時のドイツ車はエンジンノイズが大きく、ゴルフも写真の3代目までは電動ファンが耳障りな音をたてていた

 ただし優れていたのは主に上記の3点と、ボディサイズの割に車内が広い空間効率の優れたデザイン程度だ。当時のVWなどのドイツ車では、内装を見ると樹脂素材が丸出しという感じだった。シート生地も弱かった。

 快適装備も日本車が優位で、1970年代から大半の車種がエアコンをディーラーオプションで装着できたが、ドイツ車はインパネの下側にクーラーを吊り下げる方式もあった。パワーウインドー、集中ドアロック、イグニッションと連動するライトの消し忘れ防止装置など、装備の充実度は全般的に日本車が勝っていた。

 エンジンノイズもドイツ車は概して大きかった。VWゴルフでいえば、5ナンバーサイズだった3代目までは電動ファンが騒々しい。個人的に3代目ゴルフは初代と並んで好きなクルマだが、欠点も目立った。

 当時のドイツ車は故障も多かった。怖いのは初期の右ハンドル車で頻繁に経験したアクセルペダルが戻らなくなるトラブルだ。

 MT車ならクラッチを踏めば良いが、ATの場合はブレーキペダルを踏みながらATレバーをNレンジに移すといった面倒が生じた。左足でブレーキペダルを踏みながら、右足のツマ先でアクセルペダルを引っ張り上げることもあった。

 このほか車内のドアパネルの上部に装着されたドアロックの樹脂製スイッチがチギれる! サイドウインドーが脱落して閉まらない! ドアロックのキーシリンダーが頻繁に脱落! など「一体どうなってるの!?」と思う故障も多かった。しかもこのような商品力なのに、当時のドイツ車は価格が高かった。

 つまり日本車とドイツ車の商品力を価格まで含めて偏りなく総合的に比較すると、明らかに日本車が満足できた。総合的に見ればドイツ車は負けてしまう。

 そこでフランス車なども含めて、敢えて欧州車を贔屓(ひいき)する風潮ができあがった。「日本車が良いと考えるのは一般人で、エンスージアスト(熱心な愛好家)は欧州車を好む」という感覚だ。

 そして先に述べた欧州車の走行安定性/乗り心地/シートの座り心地、つまり走り/曲がり/止まるを重視するクルマ造りは、長年の技術の積み重ねだから説得力も強い。

 例えば当時のカローラやサニーの走りをゴルフと対抗させると、面白いようにドイツ車を持ち上げて、日本車を斬ることができた。

 ドイツ車は高速走行に重点を置き、日本車は時速100kmが上限で利便性を追求するから、走行安定性/乗り心地/シートの座り心地に限って比べればドイツ車の評価が高まるのは当然だった。

■日本車vs欧州車(ドイツ車)の現在

3代目ゴルフや、写真のメルセデスベンツ Eクラス(W124)などは日本車よりも深く記憶に残る名車だった
3代目ゴルフや、写真のメルセデスベンツ Eクラス(W124)などは日本車よりも深く記憶に残る名車だった

 インターネットがある今では、さまざまな読者の皆さんが自動車の媒体を読まれるが、当時は少数の自動車雑誌と書籍だけだ。自動車雑誌はいわばクルマ好きの集まるサロンのような存在だったから、日本車と比べて欧州車を持ち上げるパターンは一定の評価を得て定着した。

 確かに先に述べたゴルフの3代目、あるいはW124と呼ばれた世代のメルセデスベンツEクラスなど、日本車よりも深く記憶に残るドイツ車もあったが、同時にドイツ車が祭り上げられている面も多く見受けられた。

 これ以降、40年以上にわたり、日本車VSドイツ車のパターンが続く。この背景には、輸入車の国別販売構成比もある。2021年1〜10月におけるメルセデスベンツ+VW+BMW+アウディ+BMWミニの登録台数を合計すると、この時期に輸入された海外メーカー車の64%を占める。

 今はボルボやジープどいったブランドの販売構成比も増えているが、全般的に見れば、輸入車では依然としてドイツブランドが強い。そうなると「メルセデスベンツ VS BMW」のようなドイツ車同士の対決と併せて、日本車と比べられることも多い。

 また日本車の開発者からも、コンパクトカーであれば「走りについてはVWポロをベンチマークにした」というような話が聞かれる。取材した時にそのような話を聞くと「それならポロと比べる企画もアリかな」などと考えたりもする。

 それでも2000年以前に比べると、今では日本車とドイツ車の差が縮まった。走行安定性、乗り心地、シートの座り心地など、日本車も相当に進歩している。

 その一方でドイツ車も故障が減った。工賃は依然として高く、車検などの入庫期間も長いが、少なくともドイツ車でメンテナンスの不安を感じる機会はほとんどない。

 そして内装の質感などは、ドイツ車が急速に高まり、今では同じ価格帯の日本車以上と思わせる車種もある。根底にあるのはメーカーの技術力や表現力ではなく、コストの掛け方の違いによるところが大きい。要は素材を節約して安く造るか、相応のお金を掛けるかの違いだ。

 従ってドイツ車の常識で日本車をバッサリ斬ることは、もはやできないが、今でもブランドによる持ち味の違いは残る。日本車の走りはダメとか、ドイツ車の内装はチープというのではなく、純粋な持ち味の違いを楽しむ時代になった。

 いい換えれば、トヨタらしさ、VWらしさをいかに魅力的に表現できるのか。自動車が商品として熟成され、実用面で均質化に近付いた結果、持ち味やブランド力が問われている。むしろ今後の競争が楽しみだ。

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