内燃機関の終焉か!? 今後はどうなる? 消えゆく日本の”名機”たち

 自動車の心臓部であるエンジン。その鼓動に高揚感を感じたり、所有欲を満たされたり、クルマ好きにとってクルマを判断するうえで大事な要素だろう。しかし国産唯一のV12エンジンは消滅するし、かつてのようなキャラクターが立った”名機”と呼ばれるエンジンが少ないのも事実。

 内燃機関自体が少数派になっていく今日において、名機がなくなるのはいったいどんな結果を招くのだろうか?

文:鈴木直也/写真:トヨタ、日産、マツダ


■コスト削減で消えゆく名機たち

 かつて日本唯一のV型12気筒だったセンチュリーの1GZ-FEがモデルチェンジで消滅。“名機”と呼ばれるような個性派エンジンがまた一つ減ってしまった。

 

 時代性を考えると致し方のないことではあるが、クルマ好きにとっては寂しい限りである。なぜ最近はユニークなエンジンがどんどん減っているかというと、最大の要因は言うまでもなくコスト合理性だ。

 クルマを新たに開発するには、ざっくり300億円前後のお金がかかるといわれているが、これはエンジンやトランスミッションなど主要コンポーネンツを流用した上での計算。

 パワートレーンを新開発すると、コストはうなぎのぼりになる。

 エンジン工場を新設するための投資額は、年産30万台規模の工場で300〜500億円かかるといわれているが、まったく新しいエンジンを新規開発すると、おそらく同じくらいの開発投資が必要になるというのが識者のコンセンサスだ。

 くわえて、最近のエンジンは、燃費競争や環境規制への対応など、電子制御部分のソフトウェアが膨大。

国産唯一のV12エンジンを採用していた先代センチュリー。フラッグシップモデルには12気筒エンジンがマストのショーファーカーの世界だが、トヨタはハイブリッドを選択した

 最近流行のモデルベース開発(コンピュータ内部に仮想エンジンを構築する)や、マツダがやってるコモンアーキテクチャー(多様なバリエーションに共通するポイントを見つけ出す)といった設計手法は、肥大化する一方の開発工数をなんとか合理化しようとする試みだ。

 こういう時代になってくると、メーカーが考えることはいずこも同じ。

 リスクの高い技術開発は避けよう。エンジンバリエーションはなるべく絞ろう。バリエーションを造るにしてもモジュール化して流用できる部分を増やそう。電動化や燃費/排ガス対策などのソフトウェアは共通化して合理化しよう……。

 結果として、少量生産のユニークなエンジンがどんどん少なくなり、どこを切っても同じ金太郎アメみたいなエンジンバリエーションが増えることになる。

 ひと昔前、もっと開発コストにおおらかだった時代は、ある目的のために専用エンジンを開発するといった贅沢が珍しくなかった。

■名機は必然性から生まれたものが多い

 よくある例は、モータースポーツに勝つための専用エンジンだ。

 初代スカG(S54B)のG7型ストレート6を元祖とする歴代GT-Rのエンジンは、S20、RB26DETTを経て現行R35の VR38DETT型まで、連綿と続く歴史を誇っている。

 これぞまさに”名機”の系譜といっていい日産の大きな財産だ。こういった例は、じつは20世紀まではそう珍しくはなかった。

レースで勝つために生まれた日産のRB26DETT。スカイラインGT-Rに採用されそのポテンシャルを発揮した名機だ

 さすがにブロックから完全別物というエンジンはGT-Rくらいだが、ホンダVTEC全盛の頃は日産も三菱もN1レース専用ともいえるエンジンバリエーションを設定。

 パルサーVZ-Rなどは1.6Lで200psという異常なハイパワーを誇っていた。1990年代前半頃の日産は上から下までスペシャルエンジンが大好きだった。

 GT-Rやパルサー以外にも、ターボ+スーパーチャージャーでダブル過給するマーチスーパーターボ、コスワースチューンのCA18DET-Rを載せたブルーバードSSS-R、SR20DETを230psまでパワーアップしたパルサーGTI-Rなど、オンリーワンにチューンされたエンジンが花盛りだった。

「もっとパワーを」。その思いだけで各社から多くのスペシャルチューニングのエンジンが生産された。写真は1992年のパルサーGTI-R

 逆に言えば、この当時は専用チューンされたエンジンが搭載されていないと、スポーツモデルとしては二流に見られる風潮があったということ。

 慎重なトヨタですら、AE100系レビンには気筒あたり5バルブの専用4A-GE型を載せていたし、70系スープラにはグループAホモロゲ用の特製ターボを装備した7M-GTE型が用意されていた。

 他にも、三菱にはランエボ以前にギャランAMGなんていうレア車があって、専用のNAハイチューン版4G63型を搭載。

 ダイハツやスズキだって、シャレードGT-XXやカルタスGTIのエンジンはそれ専用仕様。挙げてゆくとキリがないけれど、とにかくスポーツモデルを名乗るならエンジンは専用ハイチューンというのがこの時代の常識だったのだ。

 もちろん、高級車の世界でも「専用エンジンでないと二流」という考え方は同じだ。

 冒頭に書いたように、センチュリーがわざわざV12を開発したのはそのためだし、初代セルシオ(レクサスLS)が完全新設計の1UZ-FE型を開発してデビューしたのも同様の理由。

 対抗馬のインフィニティQ45はもちろん、マツダにすら幻の12気筒エンジン計画(編集部註:アマティと称する高級車ブランドでW12エンジンの採用を計画していた)があったくらいで、高級車市場で戦うにはやはり「専用のスペシャルなエンジンを持ちたい」という思いが強かったわけだ。

■技術者たちの探求心から今後も名機は生まれるか?

 もうひとつ、技術開発に対する熱心さから生まれる専用エンジンというジャンルもある。

 古くは、マツダがロータリーエンジンを開発したのも高い技術力を証明するためのひとつの方法だった。

当時のマツダのロータリーエンジン研究部の様子。ロータリーエンジンの開発は当時のエンジニアたちの研究の成果だった。その意志はSKYACTIVにも引き継がれているという

 その後もユーノス800で世界初のミラーサイクルエンジンKJ-ZEM型を開発したり、世界唯一のプレッシャーウェーブスーパーチャージャー実用例となるカペラディーゼルを発売したり、まさにチャレンジングな開発姿勢がすごかった。

 こういうロータリー開発で育まれたマツダエンジニアのDNAが、一連のスカイアクティブエンジンやHCCIを実用化するSKYACTIV-Xに息づいていると思うと感無量。

 やっぱり、金太郎飴的なエンジンに甘んじていては、人類の進歩は望めないということですよ。

 そういう意味では、”名機”といえるようなエンジンが減っているという事実は、日本の自動車産業全体にとっていいことじゃない。ここは若きエンジニア諸氏の奮起を望みたいところですね。

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