写真を見て「これは何だ?」と思った人もいるだろう。これまでにないデザインだが、これは車内で使える便利な新型扇風機ではない(企画担当はちょっと考え込んだ)。
実はこれ、2006年からエアレスタイヤの研究開発を行っているトーヨータイヤ(東洋ゴム)が発表した、エアレス、つまり空気のいらないタイヤの最新モデル「noair(ノアイア)」なのだ。以下、このエアレスタイヤの開発状況と、技術発表まで至ったこの商品の今後の見通しなどを紹介したい。
※本稿は2017年のものです
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2017年10月26日号「写真で見る衝撃の真実」
斬新なデザインのヒントは「折りたたみイス」から
2017年9月に発表されたnoair(ノアイア)には、トーヨータイヤがこれまでのエアレスタイヤの試作で得てきた数々の知見が活かされているが、今回採用されたデザインは実にユニークで、タイヤ幅の奥側と手前側を交互に交差させる「X字型スポーク構造」と呼ばれるもの。ちなみにこのデザインのヒントになったのは、アウトドアなどで使う折りたたみのイスで、簡易な構造ながらも大人の体重を支える点から着想を得たそうだ。
この構造と、トーヨータイヤ独自の材料設計基盤技術「ナノバランステクノロジー」によって配合した低燃費トレッドゴムを採用したことで、性能は飛躍的に向上。従来の試作品で達成できなかった耐久性は適応法規をクリアし、騒音に関しても空気入りタイヤの適応法規に近い+1dB(A)に近づいているという。しかも、転がり抵抗に関しては同社の市販タイヤ比で25%、ウェットでの制動距離についても4%向上しているという。
パンク&バーストのない未来がすぐそこに?
そうなると実用化の時期が気になるという声も多いだろう。実際のところはどうなのか?
トーヨータイヤにこのタイヤの現在地と今後の展望を聞いてみた。
「実はまだこの種のエアレスタイヤに関する規格が存在していません。さらにこのタイヤを装着するにあたって重要になる、ロードインデックス※が乗用車に合うのかわかっていないんです。タイヤメーカーとしては、この点が解決できなければ装着を推奨することができません。まだタイヤとしての基本性能を研究開発している段階ですので、市販化で求められる乗り心地や静粛性を追求することは当分先の話となっています」
※ロードインデックス……タイヤ1本で支えることのできる最大負荷能力を示す指数。負荷能力が不足するタイヤを装着すると、タイヤの損傷に繋がる
現状は専用ホイールを装着することが必要だが、将来技術改良が進めば一般的なホイールでも使用できるようになる可能性もあるそうだ。
では、乗ってわかる部分の性能はどうなのか? テストコースで試乗した国沢光宏氏に分析してもらった。
「市販されているタイヤではないので、音やステアリングフィールはまだまだとは思う。一番気になるのは振動で、100本のスポークがあるので、そこの部分が接地した時に叩くような音が発生する。ハンドリングレベルは、限界まで攻めても壊れることはなかったし、腰砕けになることもなかったけれど、真っ直ぐ走っている時にハンドルが取られるので、ワンダリング性能は向上が必要ですね」
法整備はこれからだが、防弾車や災害車など、絶対にパンクしてはいけないクルマ・用途によってニーズが出てくる技術といえるだろう。
現在の技術では1トン以下の車両であれば、120km/hまで出せるということだが、技術が進歩すれば、多くのクルマが高速道路でのトラブルで最も多いパンク&バーストと縁が切れるかもしれない。
「noair(ノアイア)」についての詳細はこちらから(外部サイトに接続します)。
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