■ローマは一日にして成らず! 果敢なチェレンジがあったからこそ現在のヒットがある
Viは、ヴィッツをベースに、サイドにはシトロエンHトラック的なインバースラインを入れて素朴さを出しつつ、シトロエン・アミのようなオーバーハング型のリヤウィンドで奇抜さを表現し、フロントとリヤは超シンプルな半円形とすることで、カボチャの馬車のようなメルヘンチックなデザインにまとめている。
VSのデザインは、前述のようにステルス戦闘機のイメージだ。ウルトラセブンに登場するウルトラホーク1号のようなレトロ感もある。いま見るとまったく奇抜ではないが、当時は誰もが、やや悪い意味で「アニメっぽいな」と感じた。
特にインテリアにその気配が強く、メーターはレーダースコープ、ATのセレクトレバーは航空機のスロットルレバー、ハンドルは操縦桿をイメージしていたが、どれも子供っぽすぎた。
2001年、WiLL VSの試乗会で私は、開発陣に話を聞くことができた。彼らは「これがトヨタ社員!?」と思うような、超イマドキ風な(当時の)ファッションを身にまとっていたが、どこか取ってつけたような印象だった。
彼らは、「未来的でカッコいいクルマを作りたかったんです!」という、自分たちの狙いを大いに語ってくれた。それがステルス戦闘機的なデザインになったわけだが、実物のWiLL VSは、彼らのファッション同様、板についてなかったし、学生の文化祭的な空気感が強かった。
そう指摘すると彼らは、「……確かに至らない点はあるでしょう。でも我々はこれからです!」的な、謙虚かつ前向きな姿勢を見せてくれたのである。おそらくViの開発陣も、同じように、縮みそうになる手を思い切り振り上げて、大胆な作品を仕上げたのだろう。
が、WiLL ViとVSは、結果的に仮装大会のようになった。第3作のサイファは、全2作に比べると多少練れた印象だったが、多くの人を魅了するには至らなかった。その最大の理由は、「デザインが付け焼刃だったから」である。
しかし、だからこそトヨタのWiLLシリーズは、トヨタにとって強烈なステップになったとのではないだろうか。
2001年にトヨタは、アルファロメオへの愛を惜しげもなく表現した「ヴェロッサ」をリリースし、これまた大コケに終わっている。ある意味ヴェロッサも、WiLLシリーズの仲間。トヨタの「大胆にならなければ!」という意志によって誕生した、付け焼刃デザインである。
トヨタのWiLLシリーズは、自動車史に残る大失敗ではあったが、どうせ失敗するならデカいほうがいい。トヨタは、ベース車両をアレンジする手法により、それほどの開発費をかけずに、飛び切り大きな失敗をすることで、多くのことを学んだはずだ。
トヨタのデザイナーたちは、WiLLシリーズを見るたびに、自分たちは何をなすべきかを痛感しただろう。
どんな世界でも、付け焼刃は通用しない。付け焼刃ではない新しさや大胆さを表現するにはどうしたらいいかを、必死に模索したはずだ。それが現在のアルファードやヤリス、ヴォクシーといった、大胆すぎる大ヒット作につながったのではないだろうか。ローマは一日にして成らず。
【画像ギャラリー】トヨタ関係者すら驚かせたWiLLシリーズとWiLLの教訓から生まれた大胆デザインのトヨタ車たち(9枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方