日産自動車といえば、長く「日本メーカーのなかでは(トヨタに次ぐ)第2位のメーカー」というイメージが強い。確かに登録車(軽自動車除く)ベースの販売シェアでは2位に位置し(2018年7月度12.5%)、ノートやセレナなどヒット車種も多い。
しかし新型車の投入は少なく(型式認証を伴う新型車の発売は、2017年はリーフのみ、2018年はゼロの見込み)、国内日産ディーラーからは「日本市場を軽視しているのではないか」という疑問の声もあがっている。
日産はいま、好調なのか? 不調なのか? おそらくそれは、両方とも正解なのだろう。日産の売れているクルマと売れていない(なので結果的に放っぽりっぱなしになっている)クルマをあげて、日産の戦略とそれへの不満、評価などを、自動車ジャーナリストの鈴木直也氏に伺ってみた。
(※ジュークの衝突被害軽減の記述に関して、読者様からのご指摘を受けて一部修正いたしました。ありがとうございました。2018.9.25.12:00)
文:鈴木直也
■セレナ、ノート、リーフは絶好調!!
ここ最近、日産の国内販売は景気のいい話題が多い。
e-POWER効果でノートが上半期登録車販売No.1をゲット(2018年1月~6月累計で7万3380台)。モデルチェンジ以来好調のセレナも、e-POWER追加でブーストがかかり、堂々ミニバンNo.1を維持している(同5万6095台)。
この2車プラス、昨年モデルチェンジした新型リーフが日産国内販売のイチ押しだ(同1万4586台)。
たしかに、ノートとセレナの2本柱は大健闘といっていいし、リーフは実用的なEVとしては他に選択肢がない孤高の存在。自動運転技術の応用と喧伝している「プロパイロット」についても、量販車からこういう技術を普及させようという意欲は評価できる。
テレビCMもこの3車に集中しているから、一般の人は「日産は電動化に力を入れているし、自動運転技術でも先進的らしい。なんか頑張ってるねぇ」と、ポジティブなイメージを抱いていると思う。
量的にもこの花形車トリオの比重は大きい。
軽を除く日産の2018年1月~6月国内販売累計は23万7096台だから、ノート、セレナ、リーフでそのうちの6割を占める大黒柱。ディーラーの現場でも、ユーザー認知度の高いこの3車を薦めてくるし、セールスマンもおのずと販売に力が入るというわけだ。
ところが、こういう華やかに光の当たる花形車の陰で、長いこと放置されている車種があるのはいかがなものだろう。
■ライバルは売れているのに放置の分野
日産の公式ホームページを見ると、電動車両の次に「コンパクトカー」がラインナップされているが、ジューク、キューブ、マーチという、かつては一世を風靡した人気車が、ほとんど手直しもされず放置されているのが気にかかる。
ちなみに、ジュークとマーチは2010年、キューブは2008年のデビュー。
新車として発表されて以来、細かいお化粧直しや特別仕様車の投入はあったものの、基本的なメカニズムはデビュー以来ほぼそのまま放ったらかしといっても過言ではない。
誰でもわかるツッコミどころは、いま日産が熱心に取り組んでいる先進安全装備だ。
売れ線車種には「自動運転技術を応用しました!」と、自動ブレーキやレーンキープアシストの機能を華々しく謳っているのに、マーチとキューブには初歩的な自動ブレーキすらナシ。カメラ式自動ブレーキである「インテリジェントエマージェンシーブレーキ」が用意されるジュークにしても、軽自動車であるデイズにさえ装着されている「踏み間違い衝突防止アシスト」が付いていない(したがって「サポカー」認定されていない)。
いまや、ルノー・日産アライアンスは、トヨタやVWと並ぶグローバル1000万台メーカー。その業界トップメーカーが、お膝元の国内市場でこの体たらくはマズイと思いませんか?
思い返せば、この日産放置三兄弟は、それぞれチャレンジングなクルマだった。
キューブは初代から純日本的価値観のクルマとしてユニークな存在だったが、現行の2代目はそれをグローバル市場に広げようと決意。バックドア周りが左右非対称デザインだから、わざわざ左ハンドル仕様のために逆開きのドアまで造っている。
ジュークはとにかくデザインが斬新で、見る人をギョッとさせるインパクトがひとつの売りもの。のちに大ヒットジャンルとなるコンパクトSUVを先取りした商品企画センスもシャープで、欧州市場でスマッシュヒットとなった。
マーチはクルマそのものより、グローバル戦略の「どこで造るか」というテーマに挑戦した意義が大きい。このクルマの開発当時はバリバリの円高時代だったこともあり、コスト競争力を高めるため果敢にも生産をタイ工場に生産を移管。「日本の製造業の空洞化もここまできたか」と、大きな話題となった。
結果的に、この3車はどれも一時的に一定の成果を上げたとはいえるのだが、大ヒットとまでは至らなかった。
その結果が、モデル末期にいたるも目立ったテコ入れのない今の状態というわけだ。
もちろん、モデル末期の車種に多額のコストかけて技術投資をしてもメリットが少ないというメーカー側の事情もわからなくはない。利幅の薄いコンパクトカーはとくに追加コストにシビアで、生産台数を大きくして規模のメリットを追求しないと競争に勝てない。
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