セッティングの妙が光るスイフトスポーツ
スイフトスポーツは、逆にバンプストッピングラバーの使い方が上手。スプリングレートは柔らかい。
しかし、これにマッチしたダンパーの減衰力セッティングが魔法のようで、ロールが深くなるにしたがってリニアに減衰。そして、バンプストッピングラバーに当たってもわからないくらいに初期当たりがスムーズ。安くスポーティに仕上げる方法のお手本だ。
近年の乗り心地の良さは、このバンプストッピングラバーの特性を自在に設計できるようになったこと、そして扱うサプライヤーが増えたことが大きい。スプリングは硬くせずダンパーにもそれほどお金を掛けなくても、それなりの性能を出せるようになったからだ。
“硬くせずともよく動く”足回りを実現したBMW M3
最後にBMW M3。このクルマはスペシャルスポーツだから、タイヤのグリップ力が高い。リアサスペンションをボディに直付けするという、レーシングカーと同じ設計を行っている。サブフレームを介さないのでリアタイヤの応答が速くなり、サスペンション剛性とリニア感がアップ。
M3に採用されるダンパーも可変減衰力式。コンフォートにセットすればリアサス直付けなのに乗り心地も良い。これにはシートも貢献している。それとBMWは前後荷重配分50:50に拘っている。つまり、デフォルト状態で前後バランスが良い。
そして、Eデフを採用していて、コーナー進入でLSDが邪魔をしないようにフリー状態にし、立ち上がりでは最大100%まで制御する。これにより、内輪の空転を抑えてトラクションを上げているのだ。
これらによって、サスペンションをそれほど硬くせず、またサスペンションストロークを長くすることが可能になる。つまり、ハンドリングも乗り心地も良くなるのだ。
かつての国産スポーツはなぜ乗り心地が悪かったのか?
最後に、どうしてかつての国産スポーツの足はガチガチだったのか? について、少し私見をお話ししておきたい。
まず第1に、自動車メーカーの試乗会でわかっていないジャーナリストが「このクルマのサスペンションは柔らかすぎる!」と批判し、メーカーが対応してしまった。
もう少しメーカーにポリシーがあれば、柔らかいサスペンションでもジャーナリストを満足させられるボディ&サスペンション作りに目覚めたのに。「あなたのステアリングスピードが速すぎる!」と評論家に反論すればよかった。
ステアリングスピードとは、ステアリングを切る速度のこと。いきなり「ズバッ!」と切る人、居ますよね。フロントタイヤに入力が一気に入り、サスペンションがオーバーシュートする。で、「柔らか過ぎる、硬くしろ」となるわけです。
サスペンションを硬くする方法はいくつかあって、最もポピュラーなのがスプリングレートを上げること。
こうすると左右前後の荷重移動が速くなって路面とコンタクトするタイヤの面圧が一気に上がるようになり、クルマがキビキビ動く。良いことですね。
しかし、硬いスプリングは反力が強いのでダンパー(ショックアブソーバー)の伸び側の減衰力を強くしないとピッチングが多くなる。性能の良いダンパーが必要になり、当然コストも上がる。また、ストロークが減少するのでタイヤの編摩耗も大きくなる。
でも、スプリングレートを上げなくてもサスペンションを硬くする方法が他にもある。スタビライザーを太く硬くする方法だ。
スタビライザーは左右のサスペンションを繋いで、コーナリングでロールしたとき内輪のサスペンションもバンプ(=縮む)させようとするシステム。つまり、ロール(車体の傾き)で伸びようとする内輪スプリングのバネレートも、バンプ方向に使おうという考え方。
これだとコーナリングの時だけより硬くなるので、スプリングレートを硬くしなくてもコーナーが安定する。つまり、乗り心地が良い。
ただ、問題が一つある。サスペンションの伸び側のストロークが減少してしまい、コーナリング中の路面の凸凹への追従性が減少し、結果トラクションが不足。ハンドリングが悪化してしまうことだ。
第2に、メーカー側にも問題点があった。それは、車種間のプラットフォーム共用が一般化し、室内空間や車体剛性を重視して骨格が大きくなり、サスペンションのアーム長が短くなってしまったことだ。
短いサスペンションアームを大きく動かすとキャンバー変化、トレッド変化などサスペンションジオメトリーの変化が大きくなる(半径が短いわけだからね)ので、動き過ぎないように硬くしていた。
また、ストラット式とダブルウィッシュボーン式(マルチリンク含む)の組み合わせではロール軸変化が大きくなるので、やっぱり硬くしていた。
ま、ホンダのS660みたいにスポーツモデルだけ専用のプラットフォームを作ればいいんだけど、そうするとコストがかさむ。S660が高いのはそのためである。
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ここまで乗り心地のよいスポーツモデルの特徴を紹介してきたが、各車それぞれのアプローチがあることがわかる。スポーツモデルの奥はまだまだ深く、それを探求し、今後アッと驚くようなテクノロジーが出てくることに期待したい。
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