■3ペダルのテクニックはまだ必要なのか?
マニュアルミッションが絶滅危惧種となった現在、もはや無形文化財といってもいいくらい珍しくなったのがヒール&トゥとダブルクラッチだ。
こうなってくると、まずヒール&トゥとダブルクラッチとはなんぞやということを説明しないと、話が前へ進まない。
ヒール&トゥはブレーキを踏みながらシフトダウンするという状況で、エンジン回転を下のギアに同期させるためブレーキを踏んだまま右足のカカトでアクセルをちょんと空吹かしするテクニック。
ダブルクッチは、シフトアップ/シフトダウンでギアを切り替える時、いちどニュートラルポジションでクラッチをつないで回転を同期させてから次のギアに入れるテクニック。
シフトダウンの時には同期のためのアクセル空吹かし、シフトアップの時はその逆の操作が必要となる。
まぁ、ほとんどの人には「何のこっちゃワカラン」と思うが、昔の人はこういう風にイロイロと面倒な作業をこなしつつ、マニュアルシフトのクルマに乗っていたわけだ。
しかし、面倒なことは機械に肩代わりさせるのが技術の進歩というもの。
ダブルクラッチはシンクロナイザー(これも死語だね)の発達で使われなくなり、ヒール&トゥもフェアレディZが装備した「シンクロレブコントロール」のような自動空ぶかし装置で置き換えることが可能となっている。
というか、そもそも面倒なシフト操作を機械やらせようというのが、オートマチック・トランスミッション(AT)の発想なんだから、ATを選んだ時点でそれまでドライバーがやっていたクラッチ操作やシフト時の回転同期などはすべて不要となる。
冒頭に述べたとおり、AT車比率98%という現代ではヒール&トゥとダブルクラッチはもはや無形文化財といってもいいテクニックなのである。
■エンジンをかける前にアクセルを踏む!?
クルマ関連に限らず、よく意味はわからないんだけれど、先祖代々伝承されている文化みたいなものがある。
たとえば、正月になると門松を立てておせち料理を食べるなんていう習慣も、それが始まった頃には意味がある習慣だったのだろうが(門松は神様が家にやってくるときの目印、おせち料理は作り置きに向いたレシピといわれている)、今それを意識する人はあんまりいない。
エンジンをかける前にアクセルを3回踏むとか、エンジンを切る前にブオンと吹かすとかいう習慣(?)などまさにそれだ。
まだ燃料噴射が普及する前のキャブレター時代には、始動時にアクセルを2〜3度あおってやることで加速ポンプ(死語)を作動させ、空燃比を濃くすることが可能。
チョーク(死語)を使わずにエンジンをかけるという、ちょっと小洒落たテクニックだった。
逆に、エンジンを切る時には軽くブォンと空ぶかししてからスイッチオフ。たぶんレーシングマシンを真似たのだと思うが、それが通っぽいとされていた。
キャブ車が絶滅して久しいのに、こういう昔風の儀式が残っているのは、むしろ人間の習慣の方が意外に変わらないということかもしれないですね。
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