「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。
そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。
文/清水草一
写真/トヨタ
■販売台数が減ってしまった経緯とは?
最近、トヨタ プリウスの話題をトンと聞かない。年内にフルモデルチェンジも噂されているが、あまり盛り上がっていない。つい数年前まで、日本で一番売れるクルマと言えばプリウスだった。日本中、どこへ行ってもプリウスだらけ。プリウスに乗っている人は、どれが自分のプリウスかわからなくなるほどだった。
潮目が変わったのは、2015年12月、現在の4代目プリウスが登場してからだ。それは、トヨタのデザイン革命の申し子として、極めて個性的なフロントフェイスをまとっていた。通称「歌舞伎顔」。これが大不評で総スカン状態に。日本に次ぐプリウスの大市場だった北米でもほぼ同様だった。
と言っても4代目プリウスは、国内では、しばらくはよく売れた。
プリウスの販売順位(登録車のみ)と年間販売台数
2016年 1位 24万8258台
2017年 1位 16万0912台
2018年 3位 11万5462台
2019年 1位 12万5587台
2020年 12位 6万7297台
2021年 16位 4万9179台
なんとなく、現行型プリウスは最初から売れ行き不振だったイメージがあるが、決してそんなことはない。
急激に落ち目になったのは2020年からで、それまでは十分売れていた。ただ、最初の4年間は、膨大なプリウスの買い替え需要があったからこそで、それが一巡してからは、ノートやヤリスなどに食われまくり、急激に順位を落としている。
初代はともかくとして、2代目以降、プリウスがこれほど販売ランキングを落としたことはなかった。もはや「王者プリウス」の面影はすっかり消え、オワコンの空気感さえ漂っている。
■TNGAの採用で走りが大きく変わった!
5代目プリウスがどんなクルマになるか、まだわからないが、登場しても、もう販売ランキング1位になることはないような気もする。それは、4代目の現行型が失敗し、それまで築き上げたブランドイメージをブチ壊したから……なのかもしれない。
しかし、モデル末期の断末魔状態の今だからこそ、あえて言いたい。「4代目プリウスは名車だった」と!
どこが名車だったかと言えば、文句なしにシャシーがよかった。それまでの3代のプリウスとはまったくの別物であり別格。比べるのも憚られるほど、走りがしっかりした。4代目プリウスは、トヨタの新しいプラットフォーム「TNGA」の採用第1号車だ。TNGAのすばらしさについては、今さら言うまでもないだろう。
TNGAの採用後、クルマ好きの間でも、トヨタ車の評価は一変した。それまでは「どうせトヨタだろ」と言う雰囲気だったが、いま、そんなことを言う者はいない。どんなに頑固なマニアも、「どうせトヨタ」どころか「さすがトヨタ」と認識を変えた。
プリウスの場合、2代目・3代目のシャシーが特にヘナヘナで、ハンドリング以前の問題だったから、4代目の進化は劇的だった。ハイブリッドシステムは正常進化の範疇だったが、走りの質感の向上はケタ外れ。まったく別のクルマに生まれ変わっていた。
また、それまでプリウスに設定がなかった衝突被害軽減システムも、4代目で初めて導入された。歩行者検知機能付衝突回避支援型プリクラッシュセーフティ、全車速追従機能付レーダークルーズコントロール、ステアリング制御付レーンディパーチャーアラート、オートマチックハイビームで構成された衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」が、メーカーオプションで選べるようになったのだ。
3代目プリウスの現役当時、一般世間の認識としては、プリウス=最先端。まさか自動ブレーキがついていないとは思いもせず、よく調べずにプリウスを買ってしまい、あとからないことに気づいて「最先端のクルマなのに、信じられない!」と怒る奥様もいたという。そういう点でも4代目プリウスは、国民の期待に応えるクルマになっていた。
コメント
コメントの使い方デザイン攻め過ぎ。もはや下品の域。