「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。
そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。
文/清水草一
写真/日産
■名車はどうして終焉を迎えてしまったのか?
2022年8月31日、日産自動車は「マーチ」の国内販売を終了すると発表した。8月末に日本向けの生産を終え、在庫がなくなり次第、販売終了となる。
これはあくまで国内販売の終了で、欧州向けである5代目マイクラの生産・販売は続く。もっとも5代目マイクラは、日本の「マーチ」とはほぼなんの関係もなく、別のクルマと見るべきだろう。
マーチのような長い歴史を持つビッグネームが消えるたびに、さまざまなメディアが惜別記事を掲載する。どれもこれも「惜しい人を亡くした」的な論調だ。しかし私はマーチに関しては、死者に鞭打つべきだと考えている。
4代目マーチは非常に出来の悪いクルマだった。デザインも内装もシャシーもエンジンも、何もかもが水準に届いていなかった。4代目マーチは、「なぜこんなクルマが出てしまったのか?」と首を傾げざるを得ないレベルの迷車だったのだ。そんなクルマが、12年間も大した改良も受けずに継続販売されていたことが問題だ。
■登場した際に筆者が酷評した理由
2010年、4代目マーチが登場した時、私はこのようなインプレッションを書いている。
「貧乏国・日本向けの廉価商品は、もう日本国内で作ってちゃ埒があかない。日産は新型マーチをタイ製にすることを決定した。タイ製なら値段もさぞかし安かろうと思ったらそうでもない。一番安いグレードは99万9600円だけどこれは営業車用で、売れ筋は下から番目の12X(122万9550円)だ。フィットやヴィッツとあまり変わんない。ナゼ? 新型マーチはお値段フツー+タイ製。これで売れるのか。
実際のところマーチのどこがいいのかというと、燃費である。新開発の3気筒1.2Lエンジン+副変速機付きのエクストロニックCVT+アイドリングストップ機能で、10・15モード燃費26km/Lを達成。これはハイブリッドカーを除けば最高レベルの数字で、開発陣は「実燃費ではプリウスの背中が見えるはずです!」と豪語していた。実際の燃費は、17~18km/Lくらいだろう。確かにプリウスの背中は見える。
しかし、乗ってどうだったかというと、安物感が強くてわびしい気分になった。まず、足まわりがヘナヘナしてる。完全におばさんの買い物用だ。内装の黒い樹脂の質感も低い。100円ショップを思い出す。動力性能は、日本でフツーに乗る限り必要十分なれど、感じるのは節約の2文字のみ。
4気筒から3気筒へと節約を果たしたエンジンは、3気筒にしては滑らかだが、あくまで3気筒にしては。CVTもワイドレンジで燃費に貢献するが、やたら低い回転で走ろうとして節約感は強い。一種の出家、精進料理である。
マーチは世界戦略車なので、世界160カ国で売られるが、ヨーロッパ向けはこんなんじゃなく、直噴スーパーチャージャー付きのエンジンを積んで、足まわりも段違いにしっかりしたものになる。日本国内向けのマーチは発展途上国仕様なのである。それを思うとさらに涙がこぼれる」
発売されたばかりのニューモデルを、ここまで否定的に書かざるを得なかった最大の理由は、4代目マーチが3代目マーチより、主に質感に関して退歩していた点にある。旧型より新型のほうがダメになっていて、しかも値段が安くもない。そんな商品が売れるはずがない。
しかも4代目マーチは、その長いモデルライフの中で、大きな改良を一度も受けていない。私は4年前、つまり登場から8年後に、「さすがに登場当時よりはいろいろ改善されてるんだろうな」と思いつつ広報車に試乗して、まったく何も進歩していないことに驚愕した。4代目マーチは、すべてがダメなままだったのだ!
コメント
コメントの使い方日産の日本市場に対するやる気の無さが分かる1台だったね。
まず、衝突被害軽減ブレーキが搭載されたのが2020年というのが驚き。
同じようなタイプの三菱ミラージュは、簡易的ではあるが2015年には既に搭載されていたからね。
それから、運転席シートの座り心地が悪くて驚いたよ。
現行型オーナーには申し訳ないけど、これ買うくらいなら同じ日産ならデイズを買った方が良いと思う出来だった。