バブル期の国産名車なれども暴騰せず… その理由とは!? アルシオーネSVXの魅力と知られざる真実

バブル期の国産名車なれども暴騰せず… その理由とは!? アルシオーネSVXの魅力と知られざる真実

「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。

 そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。

文/清水草一
写真/スバル

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■湾曲したガラス面で構成されるエアロダイナミックボディ

 アルシオーネSVX。自動車デザイン界の大巨匠・ジウジアーロ氏がデザインを手がけた、バブル期の国産名車だ。

 同モデル最大のアイコンは、特異な形状のサイドウィンドウである。「ミッドフレームウィンドウ」と名付けられたそれは、ガラスが途中で仕切られており、下側の部分だけが上下に開閉する構造だった。

 ジウジアーロ氏による流麗なデザインにより、サイドウィンドウ上部がルーフ側に強く湾曲していたため、その部分を切り離さないと、開閉の際ドア内部に収納することができなかったのだ。

長距離をより安全、快適に走ることを目指して開発された「グランドツアラー」アルシオーネSVXは1991年に誕生した
長距離をより安全、快適に走ることを目指して開発された「グランドツアラー」アルシオーネSVXは1991年に誕生した

 この構造は「カウンタックみたいだ!」と、当時から大いに話題になったし、現在でもSVXを見かけると、真っ先にサイドウィンドウに目が行ってしまう。こんなコストのかかるデザインを、そのまま市販化したスバルに最敬礼だ。

 エンジンは3.3Lの水平対向6気筒自然吸気(240ps)。水平対向6気筒エンジンと言えば、ほかにポルシェのソレがあるくらいだ。「ボクサー6」というだけで、ものすごく特別な存在と言える。

■ネオクラシック年代のモデルだが現在の相場は!?

 これだけユニークなGTなのだから、国産旧車高騰の流れに乗り、さぞや相場が上がっているのだろうと思いきや、その気配は薄い。

 中古車サイトを覗いて見ると、1台だけ800万円台の個体(ほぼ未使用車?)が存在するが、それを除けば、高くて300万円台。安いと50万円から売り物が存在する。

 10年前には10万円程度で投げ売りされていた個体もあったので、これでも十分に値上がりはしているが、日産 スカイラインGT-Rやマツダ 3代目RX-7(FD3S)あたりの暴騰に比べれば激安。クルマの価値を考えると、「安すぎるのでは?」とすら感じる。しかも、800万円超の個体も50万円の個体も、数カ月前から売れ残ったままだ。いったいどういうことだろう……。

 思えば、超高騰中のR32スカイラインGT-Rも、10年前には最安60万円だった。それが今じゃ、走行10万km超えでも500万円以上、最高5000万円になっている。まさかこんなことになるなんて、10年前は誰一人思わなかった。

 SVXも、そういうことになっても不思議はない。なにせレア度ではGT-Rをはるかにしのぐのだから。SVXはなぜこんなに安いのか?

リアスタイルも「エアロテールデッキ」と呼ばれる樹脂成形の一体構造を採用するなど独特な形状となっている
リアスタイルも「エアロテールデッキ」と呼ばれる樹脂成形の一体構造を採用するなど独特な形状となっている

 かく言う私は、今を去ること27年前、新車でSVXを買っている。あのジウジアーロデザインに憧れて、最終特別仕様車の「S4」のグリーンをディーラーで購入した。車両本体価格は348万円だったが、大幅な値引きがあり、300万円弱で買えた。値引きも含めれば、当時大ヒット中だった2代目レガシィツーリングワゴンのターボモデルよりも安かった。

 SVXは発表当初から販売不振で、末期ともなれば瀕死の状態だった。ディーラーの担当者は、「ウチの店でSVXが売れたのはこれが初めてです!」と喜んでいたほどだ。都内の大型ディーラーなのに!

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