■詰め所のホワイトボードには月間ノルマ数
警視庁が、どれほど違反切符の売上げを重要視してきたかは、白バイ隊員たちが属する交通機動隊の詰め所の様子からも伝わってくる。2000年ごろの実話である。
小隊部屋である事務室のホワイトボードには、月間ノルマ件数が露骨に記載されていた。飲酒運転と二輪車取り締まりは基本中の基本。その上、重量制限違反、シートベルト、駐車禁止……の新交通三悪、さらには移動オービスなど、目新しいノルマもあった。まさに種目別ノルマ、目がまわりそうだった。
2001年からは、種目別ノルマに交差点違反が仲間入り、警視庁は交機隊同士の売上げを競い合わせることになる。同じ中隊内にあっても、小隊同士がライバルとなった。本格的なノルマ地獄の幕開けだった。
上からの試練はいつものこと。そんな上からの命令に絶対服従なのが警察官という生き物なのだ。文句を言いながらも、若い隊員たちは与えられたノルマ達成のため、黙々と切符切りに専念していった。
■恐怖! 実績低調者部隊の公開処刑
種目別ノルマが強化され、黙々と仕事をこなす若い隊員たちがいるいっぽうで、まったくそうではない残念な隊員もいた。取り締まりの技術に関しては個人差があるのは仕方のないことなのだが、まったく結果を出せない隊員がいたのである。こういった隊員は、小隊ノルマの足を引っ張る原因となったし、実際ノルマがクリアできなければ、「戦犯者」として陰口を叩かれた。
「戦犯者」の多くは、親方日の丸の公務員世界ならではの生き方を貫いている人だった。仕事をしない……、そしてできないからといってクビにはならない。また減給もないのを知り尽くしているのだ。世間では信じられないことだと思うが、実際、白バイの世界に限らず警察官の世界にはこうした人物が何割かは実在したのだ。
そうした状況を見かねてか、当時の副隊長があるプロジェクトチームを立ち上げた。その名も「実績低調者部隊」だ。読んで字の如く、各小隊から仕事のできない、売上げが極端に少ない実績低調者ばかりを集めた部隊である。集められたのは10名ほどの残念な隊員で、毎日勤による警ら専従チームだ。1カ月の期間限定、切符一人100件という絶対必達のノルマが課せられた。
■月間ノルマの達成後には、翌月のノルマが示される
そんなタスクフォースの肝心な成果だが、無事、全員ノルマ達成であった。結局、やればできるのであった。徹底的にケツを叩けば、できるのが警察官であり、白バイ乗りだった。
さて、毎月毎月の月間ノルマ、苦しい時は月末最終日の夜間でようやく達成という時も幾度かあった。ホワイトボードの種目別違反の数字がそれぞれゼロになった時がその月のノルマ達成の瞬間であり、小隊全員が笑顔で安堵するのだった。だが、それから数時間後……、ホワイトボードには小隊長によって新たなる翌月のノルマ数字が示される。あっという間のリセットで、小隊全員がガックリするのだった。
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