■もうひとつのクラシック、912
この流れは、こののちも引きつづき踏襲されることになる。折しも各種規制が加えられようとしていたとき、である。限られた排気量でパワーを絞り出すようなスペックは、元気に走る時には小気味よいものだが、実用的には扱いにくかったりする。
時代とともに少しばかり方向を変えねばならなかった、それをポルシェらしさを失うことなく実現した、というのがこの2.2Lへの変更だった、といえよう。
そう、このチェンジを機にフェードアウトされたポルシェ912についても記しておきたい。それは、あまりにも高価になり過ぎたポルシェ911を少しばかりフォローするような形で新設された、廉価版モデルであった。
廉価版といっても相応の性能の持ち主であるし、かえって使い勝手がよかったりするから、独自の愛好家がいたりする。
ひと口でいうならば、ポルシェ911のボディに、前モデルであるポルシェ356のエンジンを組合わせたもの。1965年4月に発表され、4年あまりの間、販売がつづけられた。一時期はポルシェ911よりも倍近い販売台数を記録した、という隠れた人気モデルでもあった。
搭載されるエンジンはポルシェ356時代の最終期、ポルシェ356SCのそれを少しデチューンしたもの、であった。
空冷水平対向4気筒OHV1582cc、90PS/5800r.p.m.というスペックは、ポルシェ356SCより5PSデチューンされていた。それでも、183km/hという性能を誇った。生産台数、33000台弱は当時のポルシェ911を凌ぐ数である。
■そして2.4Lにアップ
2.2Lになったと思ったら、その2年後、1972年「Eシリーズ」モデルからはさらに排気量をアップ、2.4Lになる。2.2の時はステッカーだけだったのが、しっかりとした「2.4」のエンブレムがリアのエンジンフード上に付き、2.4Lといわれてなんの疑問もなかったのだが、2341ccだから四捨五入すると2.3Lだ。
そのエンジンはそれぞれ上から190PS、155PS、130PSと数字上のアップも僅かなものに抑えられ、トルクの余裕というところに主眼がおかれていたようだ。
結論的にいうならば、この時代、いわゆる「ナロー・ポルシェ」の完成形というようなポジションにあり、シャープな初期のポルシェ911の味覚を際立たせつつ、性能的にも無理をすることなく高性能を得ているような印象があった。趣味的にみても、一番ポルシェ911らしい、といえるかもしれない。
じつはこの時代、「カレラRS」という特別モデルが登場し、一世を風靡する。そしてそれ以降、グラマラスなボディを採り入れていくようになる。ひとつの時代の変わり目、を迎えるのであった。
【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)
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