不正を見抜けなかった背景は……
いっぽうで型式指定の審査と試験の監査を行なう立場にある国土交通省が、約20年に渡り不正を見抜けなかったことにも批判が集まっている。そのため国交省は型式指定の不正防止に向けた監査強化等の取組を9月に発表している。
自動車メーカーによる不正に関しては、2016年に発覚した三菱自動車工業による型式指定における燃費不正を受けて、国交省は不正行為の防止策を取りまとめるとともに、道路運送車両法を改正して自動車メーカーによる型式指定の虚偽報告に対する罰則強化などを行なっていた。
しかし翌2017年には日産自動車等による完成検査における不正が発覚。メーカーへの監査を無通告としたうえで、再び道路運送車両法を改正してメーカーに対する是正命令の導入などを行なった。
今回の日野自動車による一連の不正においては、こうした改正で拡充された規定を適用して型式指定の取り消しや是正命令の発出等を行なっている。
なお、今回の不正行為を見抜けなかった背景を、国交省は次のように分析している。
●試験データの書き換え:型式申請以前に行なわれるため、立ち合いを行なっておらず、自動車メーカーとの信頼関係を前提としていた。
●量産時とは異なるエンジン制御プログラム:制御プログラムが量産時と同じであることの確認を行なっていなかった。
●燃料流量校正値の変更:校正証明書は確認していたが、証明書に記載される校正値が変更されていないことまでは確認していなかった。
●燃料流量が安定しない段階で燃費測定を開始し測定結果を偽ったこと:このような手口があることを審査官が認識していなかった。
●社内試験において都合の良い測定結果のみを国に提出したこと:社内試験のすべてに審査官が立ち会うわけではなく、メーカーとの信頼関係を前提としていた。
自動車メーカーに対する監査・審査を強化
こうした不正行為が、日野自動車だけでなく他のメーカーにおいても二度と行なわれないようにするため、国交省と審査機関である(独)自動車技術総合機構自動車認証・審査部は、次のような監査・審査の強化を行なう。
排ガスの長距離耐久試験については、測定記録や試験条件の確認、申請者の社内チェックの強化などを求める。中長期的には国際調和基準の導入など試験の見直しを検討する。
燃費性能試験は、2025年から生産時抜取試験の実施が義務化される。また、今回の不正で審査官が認識していなかった手口などを確認項目に追加する。
虚偽報告については、社内調査の実施方法などについても報告を求め、抜き打ち監査により報告の妥当性を検証する。また開発・型式指定プロセスを通じて、是正命令に関わるような社内の問題点について、確認・指導を行なう。
ところで、2016~2017年の燃費不正・完成検査不正を受けて、国交省に「自動車メーカーにおける不正行為の通報窓口」が設置されている。
たしかに不正行為は社内にいる人間にしかわからない部分も多い。メーカーが社会への責任を果たしていくことを望むと同時に、通報窓口が不正に対する抑止力になってくれることを祈るばかりだ。
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