日本で45万円EVとして話題になった中国製EV「宏光 MINIEV」。中国では2020年7月の発売以降売れ行き絶好調で、中国国内の2021年販売台数でガソリン車を含むすべてのクルマで1位となるほどの人気ぶりだ。
こうした状況のなか、10月下旬、大手経済新聞が「宏光 MINIEVの日本上陸が間近であり、2023年春には公道を走り始める」という驚きのニュースを報じた。はたして、この情報は本当なのか? 記事に出ていた日本での輸入元『アパテック・モーターズ』孫峰社長に話を聞いてみた!
文/加藤久美子
写真/加藤久美子、五菱汽車
■中国ではガソリン車含めて販売台数1位の宏光MINI EV
2020年夏に中国での販売が開始された宏光 MINIEV。激安(当時は日本円で約45万円)でありながらも、使い勝手の良さと信頼性の高さでたちまち爆発的ヒットとなった。2022年11月現在は価格が改訂され、中国本国では3.28万元(航続距離120km/邦貨換算65.6万円)、3.88万元(120km/77.6万円)、4.48万元(170km/89.6万円)の3グレードを展開している。※1元=20円で計算
また3グレード以外にも、数々の特別仕様車や企業コラボモデルがあり、「MINIEV」の名前がつくコンバーチブルモデル(ボディは宏光 MINIEVとは異なる)は9.99万元(約200万円)という高価格だ。
ボディサイズは全長×全幅×全高・ホイールベース=2917×1493×1621・1940mmと日本の軽自動車枠に比べて、全長-483mm、全幅+93mmというサイズ感だ。2ドアで乗車定員は4名である。
2021年は全世界で42万4138台も販売されており前年比255.6%増。EV/PHEVの世界販売ランキングでもテスラモデル3に次ぐ第2位、中国国内ではガソリン車含むすべてのクルマで1位となっている。2022年に入っても絶好調で中国国内の1-9月の累計販売台数は36万8750台と2位のモデルYに約6万台の差をつけてトップとなっている。
このような状況のなか、10月下旬、大手経済新聞が宏光 MINIEVの日本上陸が間近であることを報じた。メーカーである五菱が日本市場の調査を始めたという内容で、2023年春には公道を走り始めるという。
はたして、これは本当なのか。2023年春といえばもう半年を切っている。
記事に出ていた日本での輸入元『アパテック・モーターズ』孫峰社長に話を聞いてみた。
■複数の自動車メーカーと協議している段階
――宏光MINIEVを正規輸入し、安価な価格で販売するというのは本当でしょうか?
孫峰社長:宏光MINI EVのメーカーである五菱との話が進んでいるのは確かですが、それは、五菱だけではありません。他に小型EVを生産している複数のメーカーとも同様に協議を進めています。現在までにEV導入について日本国内の企業50社ほどの会社と導入に向けた調整を行っており、台数、価格、用途、仕様など各社のニーズにあった低価格EVを提供したいと思っています。
2023年に日本の公道を走り始めるという情報もあったようですが、導入時期、公道を走り始める時期すべて未定です。
――日本に正規輸入されたあとの、アフターサービスについてはいかがでしょうか?
孫峰社長:現在、全国に多数のガソリンスタンドを展開している大手商社と協議を進めています。充電ステーションの設置はもちろんですが、中にはピットを併設しているスタンドもありますので簡単なトラブル対応、タイヤ交換などの軽整備をガソリンスタンドで行えるようになるとユーザーにとっても便利で安心感が高まりますね。
――佐川急便の配送専用車として導入が予定されている中国製小型EV貨物車などのように、ファブレス方式(日本で企画設計された車両を中国の工場で生産)のEVということではないのでしょうか?
孫峰社長:ゼロから企画されて中国で製造されたEVを輸入するのではなく、すでに販売されていて十分な実績があるEVの方が日本では受け入れられやすいでしょう。日本のユーザーは品質やアフターサービスのレベルが高いクルマに慣れていますので求めるレベルも異なります。その点では宏光MINI EVのように2020年8月の発売から累計54万台以上が販売されている安心感があると思います。
■実際、宏光MINI EVは日本の公道を走れるのか?
日本の公道を走るということは、日本のナンバープレートがつく=日本の保安基準に適合させることである。メーカーが出荷に関わる日本への正規輸出であっても、中国の自動車メーカーが日本の公道を走るまでには諸々、改善や整備をしていく必要がある。それは、中国が『58協定』(国連の車両等の相互承認協定)加盟国ではないからだ。
しかし、実は注目すべきことがある。宏光MINI EVはすでに2021年から欧州・リトアニアの4×4メーカー『Dartz』の工場にてKD生産(ノックダウン生産 キットを中国から輸入してリトアニアの工場で組み立てる)をスタートさせており、欧州の厳しい安全基準(UN-ECE)に適合し欧州各国での販売も始まっている。
車名は中国名の『Wuling MINI EV』ではなく『FreZe Nikrob』(フレーゼ ニクロブ)。ちなみにFreZe(フレーゼ)とはロシアで最初に自動車を製造したメーカー『Yakovlev & Freze』に由来するとのことだが、なぜ宏光 MINIEVにこのメーカーの名前を復活させ、車名に採用したのかは不明だ。
さて、話を戻そう。一番知りたいのは宏光 MINIEVが日本の公道を走れるのか、ということだろう。日本における道路運送法の保安基準は、EVの電池認証をはじめ、UN-ECE国連欧州基準を採用しているため、すでに欧州の基準に適合しているとなれば、日本の保安基準適合はそれほど困難ではないかもしれない。
例えば、並行輸入のEV やハイブリッド車の場合、UN-ECEの電池認証をとるだけでも大変な手間と費用が掛かる。自動車メーカーの技適書類などが出せない状態であれば、ほぼ不可能だ。試験を行うにも数千万円の費用が掛かる場合もある。
しかし、宏光MINI EVはすでに欧州で認証を得ているのでまるきりゼロの状態から日本で登録するEVとはかなり事情が異なってくる。保安基準を満たすためのコストもかなり安くできる可能性がある。さすがに、中国での価格と同じ65万円~の価格は難しいだろうが、100万円台前半にまで抑えることができれば爆発的ヒットの予感も。これが軽自動車枠(全幅1400mm未満)に収まれば日本の軽EVメーカーにとってはさらなる脅威となりそうだが全幅を94mm削るのはさすがに不可能か?
宏光MINI EV以外にも様々な中国製の超小型EVが今後、増えてくる可能性がある。また、前出のアパテック・モーターズ孫社長はさらなる「野望」も明らかにしてくれた。それは…
『人件費が安く、技術力がある日本に中国の自動車メーカーの生産工場を誘致する』ということ。場所は福島県内とし、福島の復興にも貢献したい考えだ。日本で生産すれば、中国メーカーのEVでありながら「メイド・イン・ジャパン」の称号も手に入れられる。中国製造業の人件費は今や日本と変わらないレベルに来ている。中国メーカーが日本で小型EVを生産する日が訪れる日もそう遠くないのかもしれない。
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