隣国、中国の年間新車生産台数は2522万5242台と世界1位の自動車大国(ちなみに2位のアメリカは882万2399台、3位の日本は806万7557台、4位のドイツは374万2454台)。食品や服と同じように、中国製のクルマも日本でも走り回っていてもよさそうなものですが、まったく見かけません。なぜなのでしょうか?
そんなところへ約50万円のEV、宏光ミニEVが中国で販売された、というニュースがありました。こんなに安い中国製EV、なんとか日本に並行輸入し、ナンバーを取って乗ることはできないのでしょうか?
中国は隣国なので近く、輸入する船積み費用などはアメリカや欧州よりも当然安いはずなので、日本にもじゃんじゃん輸入されてもよさそうなはずですが……。
なぜ中国製自動車が日本に輸入されていないのか? 約50万円の宏光ミニEVをなんとかして日本で登録して公道を走れないのか、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんが解説します。
文/加藤久美子
写真/加藤博人、@YutaPon9051、WULING MOTORS、トヨタ
■中国で販売されている車両を日本に並行輸入して日本のナンバーをつけることはなぜできないのか?
海外から自動車を輸入する方法は大きくわけて2つある。インポーター(正規輸入販売元など)を通じて輸入する「正規輸入」と並行輸入業者が海外のディーラー等から買い付けたクルマを輸入する「並行輸入」の2つだ。
これ以外に駐在員が海外で使っていたクルマを日本に持って帰って来るケースもある。
また正規輸入ではありえないが、並行輸入であれば現地で流通する中古車の輸入も可能となる。俗にいう「中古並行」「中並」などと呼ばれる車両だ。並行輸入というと素性が分かりづらいと思われそうだが、車両の修復歴や水没歴などを調べたい人は『CARFAX』などを利用すればかなり詳細に履歴を調べることができる。
並行輸入の良さは正規輸入では入っていない車種やグレードを購入できることで、並行輸入全盛期?のバブル時代はとくに正規輸入に比べて価格が安いことや納車が速いことなどの利点が重宝された。
しかし、近年は並行輸入車を日本で登録することは以前ほど、簡単なものではなくなっている。それぞれの国や地域での生産販売計画やPL法、リコール対策などを理由に自動車メーカーは並行輸入を嫌う向きもある。
また、新しい動きとしては今年7月1日より独立行政法人自動車技術総合機構によって並行輸入車の審査規程が改訂されており、『並行輸入自動車の事前審査書面等の明確化』もスタートした。販売国や車種によって事情が異なる面もあるが、全般的に並行輸入車両登録までのハードルが上がったのは確かだ。
さらに、2024年から正式にスタートする新しい車検システムにおいてはエーミングなどの「特定整備」の部分で並行輸入車の扱いが不明瞭となるなど、明るい材料がない状況である。
しかし、多少ハードルは高くなったにしても、日本は左ハンドルでも右ハンドルでも、新車でも中古車でもほぼ何の制限もなく輸入登録が認められている。自動車メーカーを複数擁する国としては世界に他にあまり例がない。
アメリカでは製造から25年経過しないと右ハンドル車の中古車輸入は原則ダメだし、中国では海外からの中古車の輸入を原則認めていない。
日本は先進国のなかでは、選択肢が非常に多い自由な自動車輸入が許される稀有な国なのである。そのような門戸を広く開放している日本にも輸入が難しい国の車両がある。その代表格が中国だ。
正確に言うと、中国製の車両が困難なのではなく、中国で販売されている車両を並行輸入で日本に入れて日本のナンバーをつけることが困難なのである。
つまり、レクサスLMやトヨタシエナなどトヨタ自動車が日本国内で生産しているクルマであっても、中国で販売されている車両を並行輸入で持ってきて登録することは大変難しい(できなくはないが1台あたり数百万円という莫大な費用が掛かる)。これは「58協定」と呼ばれる協定に中国が参加していないことに主な理由がある。
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