路線バスには車体の中にも外にもほぼ必ず広告の類が掲出されている。見慣れているせいか、それほど深く気にする機会のないバス広告であるが、具体的に何の広告なのかは抜きにして注目すると、一体どんなカラクリが見えてくるだろうか?
文・写真:中山修一
※写真の一部に加工を施しています。
文明の歴史=広告の歴史?
物事を意図的に知らせることで広く認知させる発想は、人類が文明を持った時点で存在していたらしい。5,000年以上前の古代エジプトでは、媒体(パピルス)を用いたアピール手段が既に用いられていたほどだ。
現代の広告に近い手法が初めて採り入れられたのは、印刷技術が発達し始めた16〜17世紀のヨーロッパと言われる。
海外で公共交通機関が飛躍した19世紀の中頃、乗り物本体をPR媒体としても活用するアイディアが生まれ、19世紀後半には広告看板を取り付けた馬車や路面電車が走るようになっていた。
こういったPR手段を「交通広告」と呼ぶが、日本への伝来も極めて早く、国内初の旅客鉄道である新橋〜横浜間が開業した6年後の1878年には、早くも鉄道に酔い止め薬の広告が掲出されている。
日本で交通広告がバスに波及したのは1925年と言われている。当時はバスの車体(特に後部)に広告看板を取り付けたものであったようだ。車体に広告を掲出する基本的なスタイルは現代まで続いている。
「狭い範囲」だからこそのアドバンテージ
一般路線バスの交通広告はバスならではの特性を持っている。走行するエリアが比較的限られるため、より地域性が強いものを告知したい時に効果が高いとされる。
路線バスは主にその地域周辺に住んでいる人が利用するため、バス路線沿線にある店舗や事務所、その地元にまつわる商品などのピンポイントな宣伝に向いているわけだ。
半面、全国的に知られているものや、どこでも購入できる商品などのPRにはそれほど強くないと言える。
実際、路線バスに乗って車外あるいは車内の広告を観察すると、その地域に即した物事をアピールするものが殆どを占めるはずだ。商品や店舗などの広告のほか、バス事業者の自社広告や告知事項が掲示される場合もある。
隙あらば載せるゼ!? バス車両の広告スペース
路線バスには車外にも車内にも広告掲出ができる。外側は主に街中の歩行者や停留所で待つ利用者に見てもらうためで、大抵は車体の左右と後部(事業者によっては前面)に広告枠が用意されている。
車体後部の場合、バスの後ろを走行する車両のドライバーや同乗者も対象に含まれる。車体に広告看板を差し込む金属製の額が取り付けられているタイプと、ステッカー等でボディに貼り付けるタイプがある。
ラッピング技術が確立した1990年代中盤以降は、バスのボディ全体を広告枠に割けるようになり、そういった広告ラッピング車も最近は頻繁に見かける。
ラッピング車は否応無しに公衆の面前に触れることや、交通安全に関わってくる性質上、内容的な審査がある。さらに各事業者で条件が異なるが、彩度の高い色の使用や「読ませる」もの、交通情報と混同するようなものもNGなようだ。
一方の車内広告はもちろん乗客向け。最もポピュラーなのが窓の上・天井の肩の部分に並べて掲出するスペースだろう。広告自体は紙のポスターとなっており、B3サイズ(364×515mm)が多い。
他にもポスターを吊り下げるタイプや窓ステッカー、運転席後ろの衝立部分(デジタルサイネージを含む)、注意喚起表示の周辺、座席背もたれの裏などなど、目に付く箇所で空いているところは広告枠に使われると思って良さそうだ。
一般路線バスのみならず、高速バスや貸切バスにも一部の事業者で広告枠を用意している。
外側は車体ラッピングが基本となり、車内は座席枕カバーの背もたれ裏に垂れる部分と、シートポケットに差し込むパンフやチラシ等で広告の掲出が可能だ。