高速バスの座席は幅やシートピッチによりさまざまなパターンがある。一昔前の高速車は多種多様だったが、最近はいくぶん集約化されたように感じる。事業者の目線と乗客の希望とでは乖離が広がっているのだろうか。1+2のシート配列車の歴史から考察する。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
■シート配列は全6種!! 昼行便の3列は希少に
シートの配列は4列補助席付き、4列補助席なし、2+1の3列、独立3列、2列半個室、2列個室といった具合だろうか。昼行便で3列は非常に少なくなっており、ほとんどが4列だ。
夜行でも独立3列を基本とする事業者でも廉価版は4列とするケースが多く、さらに安い便ではトイレの設備もないという場合もある。
この中で1+2の3列は九州島内の昼行便に多かった。本稿では主に変遷が著しかったこの3列シート車について述べる。昔は100km未満の短距離でも3列シート車を積極的に投入し、乗客の囲い込みに走った。
当時はまだ携帯電話はなく、したがって「車内での通話はご遠慮ください」という概念そのものがなかったので、夜行便はもちろん昼行便でも自動車電話システムを利用した100円硬貨専用の公衆電話が設置された。
その後はテレホンカード専用の緑の公衆電話に順次置き換わったが、それも携帯電話の普及とともに姿を消した。
1+2の3列シート車の評判はおおむねよく、鉄道との競争に四苦八苦していた九州のバス事業者はこぞって導入した。
ただし必ず座れて便利になった高速バスが通勤や通学の手段に使用され始めると、3列シート車ではラッシュ時の高速本線上バスストップで積み残してしまうという問題が露呈した。
うれしい誤算だったが、これに対しては積み残しが出る当該区間を通る4列シート車が走る他の路線を含めて大幅に増便し、2台・3台と続けざまにバスが来るダイヤに変更しながら対処した。よって、どこからくるバスでも補助席を含めて軒並み満席だった。
■運転士不足のスパイラルに陥っていく
こうして増便を続けていくとバスの台数が一気に増えるが、東京都内のように土地がないわけではないので周辺の営業所に分散したり、担当営業所を中心地だけではなく地方にも持たせて分散を図り、便数や行先の多様化を維持した。
バスは極端なことを言えば金を出せばいくらでも買えるので、増やせるだけ増やすことは不可能ではなかった。こうして周辺の路線バスよりも多い毎日100便以上が走るドル箱に成長した路線も存在した。
前述のとおり路線によっては高速バス利用者の多くが定期券利用になり安定した乗客数を確保できることも手伝って台数は増加の一途をたどった。少し古くなった車両は地方へ数度転出させて特急車や急行車として活躍した。都市部には常に最新の高速車が導入され、乗客の満足度をさらに高めた。
しかし長引く不況に突入し、労働環境が悪くなると沿線人口が減りはじめ、次第に増便は頭打ちになっていく。
鉄道との割引運賃競争も限界が見え始め、デスマッチの様相を呈した。人口が減るので長距離夜行便の利用が減り、事業者にとっては不要不急ともいうべき夜行高速バスが減便から廃止へと整理に向かい始めた。
そのころにはバス運転士の不足が顕著になり始め、事業者では路線整理を始めなくてはならない状況へと環境が悪化した。これは鉄道事業者も同様で、あの手この手で乗客誘致を試みるもののパイを奪い合うだけの競争に終始し、関連事業へと収益を求めていくことになる。