■課題その2:異常燃焼抑制のためのリーン化で性能が低下してしまう
水素の燃焼速度は、ガソリンの6~8倍程度と非常に速い特性を持っている。燃焼速度が速すぎると、燃焼ガスの温度が急激に上昇し、高温になりやすい点火プラグや排気バルブを熱源として、点火プラグの火花が飛ぶ前に熱面着火を起こす。この現象は、「プレイグ」と呼ばれる異常燃焼で、燃焼(出力)を制御できなくなり、最悪の場合は過昇温したプラグや排気バルブが溶損して、エンジンが破損してしまうこともある。
これを防ぐため、現在は、可燃範囲が広い水素の特性を利用し、リーン化(水素濃度を低下)することで、燃焼速度と燃焼温度を低減する手法が採用されているが、水素混合気をリーンにすると出力は低下するので、本来の水素エンジンのポテンシャルは発揮できないことになる。水素エンジン車実現に向けては、プレイグの発生をいかに抑えるかが長年の課題であり、水素エンジンの性能を左右する重要なテーマとなっている。
■課題その3:水素脆化性に対応した材料や加工法が必要
水素は、ほとんどの材料を透過する性質があり、長時間経つと材料を脆くする「水素脆化性」を持っている。特に鉄系材料は使えないので、水素と接触する噴射系部品には、水素脆化性に強いステンレス系が採用されている。また、プレイグの熱源になりやすい点火プラグについては、熱価を上げたり、形状の最適化が必要だ。
さらに気体の水素は、液体燃料のガソリンや軽油と比べて潤滑性が劣るので、インジェクタの先端のバルブやライナーの摺動面には、メッキ加工を施すなど特殊な材料や加工技術が必要となる。これらも水素エンジンのコストアップの要因となってしまっている。
現状、水素エンジン車は、課題であるプレイグなどの異常燃焼を、制御などによって強引に抑え込んでいる状況で、まだそのポテンシャルを十分発揮しているとはいえない。今後の燃焼制御技術の進化に期待したいが、一向に進まない水素インフラの整備(政府によるバックアップが必要)なども考えると、一般的な普及には、まだ時間がかかりそうだ。
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