プリウスとともに市販化を実現したハイブリッドは、燃費性能を高めるための技術でした。しかし、エンジンとモーターを組み合わせたこのシステムを、スポーツに利用できないかと考えたのがホンダ。そうして誕生したのが、初めてマニュアルミッションをラインアップしたハイブリッド車、ホンダCR-Z!
文/斎藤 聡、写真/HONDA
■期待が高まりすぎた!? フタを開けたら「普通のクルマ」
ホンダCR-Zというクルマを記憶されているでしょうか。ホンダのコンパクトスポーツカーCR-Xを彷彿とさせるクーペスタイルのハイブリッド・スポーツです。ハイブリッドカーに運転する面白さを持ち込んだ、いかにもホンダらしいクルマです。
登場したときは、いよいよホンダがハイブリッドスポーツカーを出した!! と歓喜の声を上げたくなりましたが、いざ乗ってみるとてんで普通のクルマでした。
そりゃあ、1.5L・114馬力/145Nmのエンジンに14馬力/78Nmのモーターを組み合わせても、驚くような加速性能は期待できはずもないのです。
ただ、CR-Zが登場したことで、これまで退屈で面白みがないと思われていたハイブリッド車のモーターに可能性みたいなものを見いだすことができたのもまた確かなことだったのです。
■モーターを「加速」のために使うという発想
CZ-Rの登場は、2010年。プリウスが2代目から3代目に代るちょうど狭間の時期になります。搭載するエンジンはLEA型と呼ばれる1.5L・SOHC・V-TECです。
ひと足早く登場したインサイト(2代目)にはL15A型1.5Lエンジンが搭載されていたのですが、CR-Zの低いボンネットに収めるためにL13A型シリンダーヘッドを流用しエンジンハイトを低く抑える工夫が凝らされたのがLEA型でした。
ホンダが採用したハイブリッドシステムは、エンジンとモーターの出力軸が同じ……つまりエンジンの出力をモーター駆動でアシストするパラレル方式と呼ばれるものです。
CR-ZはLEA型1.5L・SOHC・V-TECエンジンにMF6W型と呼ばれる薄型DCブラシレスモーターをくみあわせており、エンジンは最高出力(MT)114ps/6000rpm、最大トルク145Nm/4800rpmを発生。これに14ps/78Nmを発揮するモーターが組み合わされていました。
2012年になると、エンジンがバルブリフト付きV-TECとなり、120psにパワーアップ。バッテリーがニッケル水素からリチウムイオンに代って電圧が上がりモーター出力も20psにアップしました。
ついでに……というか、ここが重要だと思うのですが、ホンダはこのマイナーチェンジでステアリングに「S+」(プラススポーツボタン)を追加。
このボタンを押すと、モーター出力が解放され強い加速が得られるのです。モーターを積極的に使って加速性能を向上させる、というそれまでハイブリッド車にはなかった考え方を取り入れたのです。
じつはマイナーチェンジ前のモデルにもエコ/ノーマル/スポーツの切り替えボタンがあり、スポーツモードは積極的にモーターパワーを使って活発に走れるように設定されていました。
いまでは常識になっていますが、2010年当時モーターになじみのある人ならモーターは動き出した瞬間に最大トルクを発揮するという特性を持っていることは知られていたのですが、実感としてモーターの特性を体感する機会や、そう感じさせるクルマはほとんどありませんでした。
CR-ZのMTを走らせてみると、飛び抜けた速さは感じませんでしたが、スポーツモードを選択すると各ギヤの守備範囲が明らかに広くなるんです。特に3速は2000回転を下回るような回転域からでもスルスル加速していくのです。
タイトなワインディングロードで2速に入れないとスムーズに走れない場面でも、3速に入れたままシフト操作をサボっても案外ペースを落とすことなくスイスイ走れてしまうのです。これはとても興味深い体験でした。
CVTはアクセルを踏みだした瞬間からトルクがかさ増しされたように(やや)力強い加速を持続してくれます。
当時、エンジンと言えば回転が上がるほどにパワー感が充実してくるというのが当たり前で、アクセルを踏んだ瞬間からググっとトルクが出るという感覚はありませんでしたから、このCR-Zでモーター駆動の面白さに興味を持った人は少なくなかったと思います。
ハイブリッドと言えば無機質で存在感のないエンジン、パワー感、ただ走るための動力といった印象がありました。ありていに言えばプリウスですが、その代わりに2代目プリウスの燃費は29.0km/L(JC08モード)と傑出したものでした。
これに対してCR-Zは燃費こそ20.6km/Lと大きく水をあけられていましたが、エンジン出力をモーターがアシストするシリーズハイブリッドは、エンジンの存在感やパワー感が明瞭で、効率の良い動力源的なプリウスのパワーユニットに対してエンジンで走るクルマという感覚がありました。
この点もエンジンにこだわりを持つホンダらしいクルマということができました。
パワーのあるモーターを組み合わせなかった理由の一つに、このクルマがカリフォルニア州大気資源局の定める「アドバンスド・テクノロジーPZEV(≒ゼロ排出ガス車として部分換算される先進技術搭載車)」として認定を受けるためだったと言われています。
当時大気汚染の激しかったカリフォルニア州では(いまも北米の急先鋒ですが)、排気ガス規制が厳しく、北米を拠点に置くホンダとしてはこれをクリアすることでクリーンホンダを他社に先駆けてアピールすることに重きを置いていたのです。
CR-Zを作り出すくらいですからホンダのエンジニアはすでにモーターの持つ特性がモーターブーストとして可能性を持っていることをわかっていたはずなのです。
惜しむらくはモーター出力があまりにも小さかったことでしょう。CR-Zに100馬力/200Nmくらいのモーターが搭載されていたら、CR-ZにタイプRが作られていたら、ホンダのハイブリッド車はまた別の進化を遂げていたのかもしれません。
【画像ギャラリー】登場も消滅も10年早すぎた!? ハイブリッド技術をスポーツに応用した意欲作・ホンダCR-Z(12枚)画像ギャラリー
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