バスがスムーズに走れれば、都市部のバスの信頼性は高まり、公共交通利用促進につながる。それはわかっているが、バス優先策をとろうとすると、道路の改良などのインフラ整備やPTPSといったシステム導入など、どうしても大きな投資をともなうものになってしまうと思い込んでいないだろうか。
しかしもっと単純に、既存のインフラを変えず、交通規制だけでできるバス優先策があることを知っていただきたい。しかもマイカーを締め出すわけではなく、ちょっと遠慮してもらう施策である。
(記事の内容は、2022年9月現在のものです)
文、写真/鈴木文彦
※2022年9月発売《バスマガジンvol.115》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より
■地方都市に見るちょっとした交通環境の改善
写真は岩手県盛岡市の市街地北部にある高松4丁目の交差点である。まだ残暑厳しい折、なぜ雪の写真? と思われたかもしれない。実は積雪時に撮った写真は轍の跡が鮮明に見えるので、ここで採用されている施策を説明するのに都合がよいからである。
この交差点のロケーションをまず説明しておくと、背後(バスが向いている方向)が盛岡都心部、奥の方(バスが来た方向)が松園ニュータウンなどの住宅地である。
奥から左手に抜けている道路は都心と松園地区を結ぶ幹線の4車線道路で、中央線変移が行われ、午前中は市街地向きが3車線となり、うち左車線は朝方バス専用レーンとなる。この交差点から右手に折れる道路は片側1車線だが、距離的には都心に最も短絡できるルートで、沿道に病院や集客施設も多い。
岩手県交通が運行する路線バスは、基本的には松園方面からこの交差点を左折し、盛岡駅前、盛岡バスセンター方面に向かうが、交通規制がなされる前は、多くのマイカー通勤者も右手の短絡ルートを行くため、片側1車線に車が集中し、渋滞がバスの遅延につながっていた。
■バスレーンからバス・タクシーだけが近道へ
そこで盛岡市がオムニバスタウンに指定されたのを機に、200
2年に松園地区でゾーンバス方式を採用するのと並行して盛岡市と岩手県警が協議を行い、この交差点を改良することでバスをスムーズに都心へアクセスできるようにした。
“改良”といっても、最も渋滞する朝ラッシュの1時間、松園方面からこの交差点に差し掛かるところに、青地にまっすぐの矢印の直進のみ可(路線バス・タクシー除く)という標識を設けただけである。
つまり一般車は朝の1時間はこの交差点を左折できず、直進して少し距離の長い別ルートで都心へアクセスすることになる。
一方バスは、ここまでバス専用レーンでスムーズに走ってきてここで優先的に短絡ルートに左折、一般車がわずか(沿道居住者の進入はあるのでゼロではない)なので、渋滞に巻き込まれずに都心へ向かうことができる。右手に向かう轍がバスレーンからのみ延びているのがよくわかるのが雪の日というわけなのだ。
この施策により、ゾーンバスシステムの基幹となる松園バスターミナルと都心の間約8kmで7~8分の時間短縮となり、当時松園方面のバス利用者は4%程度増加した。定時性と速達性の確保がバス利用の促進につながった。