■ブリヂストンの売上原価率は約60%で安定
まずはわかりやすく「値上げは本当にコスト増に対応した分のみなのか?」から。
これを見ると、売値の増益分(3250億円)はほぼ原材料費と加工費と海上運賃価格の減益を併せた額(3220億円)と同額になるのがわかります。「値上げはコスト増に対応した分のみ」にしっかりなっているのです。
加工費の補足コメントにも涙ぐましい努力が垣間見えます。全体としては690億円のコスト増ですが、生産現場の改善活動により120億円の増益を達成してもいるのです。エネルギー価格の高騰にただ飲まれるだけではなく地道に効率化も進めている。世界を席巻したトヨタ式しかり日本の製造現場は本当に真面目で凄いのです。
「いやさ、例えば原価率はどうよ? 実は原価率を下げてきておいしい思いしてるんじゃない?」
ふむ、では2017年から2022年にかけての各種指標を見てみましょうか。
売上原価率を見ると、基本的に60%と少しで安定しており、特段に便乗値上げで利ざやを稼いでいるような形跡も見られません。原価率を維持するために適切な値上げをしていることがわかります。
「原価率を上げてでも価格を維持してお客さまに奉仕するのが筋だろう!」 ですって? うーん気持ちはわからなくもない。確かに日本ではそうした自己犠牲的な精神が尊ばれる雰囲気もありますね。
しかし、大製造企業においては、「お客さまに安定していい製品を届け続けるために、長く良好な経営状態であり続けることが何よりも大事」なのです。ある製品を買ったはいいけれど「製造元が潰れました。何か不具合があってもいっさい責任取れません、知りません!」では製造責任を果たせないのです。
長い目で見てお客さんに貢献するには、目の前の提供価格を安くするのが大事なのではなく、ライフサイクルすべてを通してユーザーをサポートし、さらにそのライフサイクルが終わった時に「また買いたいな」と再び選べる状況にあることが大事。
クルマで言えば、世界中で老若男女から広く愛されるマツダのロードスターをイメージしてもらえればいいのではないでしょうか。マツダさんはまさにその心意気で厳しい経営状況のなかでもあの世界的名車を作り続けている訳です。
そうした観点で先ほどの表を見ると、コロナ禍の2020年を除けば各指標がかなり安定しているのがわかるのではないでしょうか? こんなに数字を安定させるのは並大抵の努力ではできません。
さらに実はこれ、健康経営過ぎて涙が出るような非常に高いレベルでの安定なのです。大製造企業での平均が4%の利益率は10%超え。同じく平均40%の自己資本比率は60%超え。平均80%の原価率は60%台、さらに平均130%の流動比率はなんと200%超え!
これ、凄いことだと思います。
さらに白眉なのが、2022年に流動比率と自己資本比率を上げてきていること。2023年は今まで以上に景気が悪くなると予想されているので、先立って余力を付けるようにしているのかなと感じます。それを狙うのみならずこの世界経済状況下で実際にやっちゃうのですから、いや本当に素晴らしい経営だと思います。
ちなみに、某他メーカーの数字と並べてみたのがコチラ。
各社努力されていますがやはり、全般的にブリヂストンはいい数値なのがわかりますね。
……ところでA社さん、ちょっと不安になりますね。ここ数年で諸々の数字が一気に落ちています。いろいろなニュースを含めて総合すると、成長のために海外含め複数拠点を拡大した最中にコロナ禍が来てタイミングが悪いのも間違いないですが、リスクヘッジも経営とすると判断に悩むところです。
それでも利益は出ているし、流動比率は高くキャッシュも回ってますし、大丈夫でしょう。原価率が高いので、今後はいかに付加価値を付けつつ原価コストを下げていくかが課題になりそうです。特に最近はいいタイヤを作っているとは思うので、あとはマーケティングと価格&ブランド戦略が向上すればとは思います。
閑話休題。
そんなこんなでタイヤの値上げからまさかの決算読み込みまでしてしまいましたが、ご覧のようにタイヤの値上げはしっかり裏付けのあるものであり、メーカー各社ともいい製品を私たちに届け続けるために日夜努力をしてくれているのです。
それでは皆さん、いいカーライフを!!
【画像ギャラリー】値上げ、さらに値上げという状況の今、タイヤもやはり価格を上げざるを得ないのか(8枚)画像ギャラリー
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