FFセダンとして歴史を重ねるマツダアテンザ。そしてプレミアムFFセダンとして日本での展開も始まったレクサスES。
セダンといえばFRという公式もあるのだが、あえてFFで残り続ける2台を今回は元日産の開発エンジニアにして、R35GT-R開発責任者でもある水野和敏さんに試乗してもらった。
試乗のインプレッションもあるのだが、当記事では試乗する前の「静的」な評価を中心にお送りしよう。
運転しなくてもわかること、水野さんには多くあるようです。
文:水野和敏/写真:池之平昌信
ベストカー2019年3月26日号
■フロントの空力処理は両車とも改善の余地あり
こんにちは水野和敏です。今回はとても興味深い2台を乗り比べながら徹底的に評価してみたいと思います。
レクサスESは日本のレクサスモデルとしては初のFF4ドアサルーンです。
一昨年モデルチェンジをしたトヨタカムリと基本的なプラットフォームを共通にしながら開発されたミッドサイズセダンで、以前は「トヨタウィンダム」という名で日本国内でも販売されていました。
もう1台のマツダアテンザは、昨年夏に大幅なマイナーチェンジを実施して内外装を一新しています。
当然、シャシーやボディなども手が入り進化玉成されていると思われますので、そのあたりもあわせて評価したいと思います。
レクサスとして、このサイズのFFサルーンを日本でも販売するのは、マーケットを考えれば当然だと思います。
つまり、ISではサイズが小さすぎ、GSでは個性的なプレミアム感が強く、ファミリーユースには敷居が高いと感じる顧客層に向けて「室内が広く快適なFFで、適度にプレミアムとスポーティさは演出されているが、GSほど敷居を高く感じさせない」という、ESの狙いは凄くわかりやすいクルマです。
アテンザセダンは街中で結構見かけますが、ミッドサイズ4ドアセダンとして大きめにした車両サイズと価格の絶妙な設定が買い得感を生み、功を奏しているのでしょう。
このクラスでこのサイズだと400万円オーバーは当然になっていますが、アテンザは300万円台からラインナップを揃えています。
この50万〜100万円の割安感は素晴らしく、トヨタカムリとの二択のような存在。地味だけれど頑張った仕事をしています。
パッと見るとアテンザはマイチェンで前顔が少しスカイラインに似てきましたね。従来はフロントの尖った感の鼻づらが目立ち、前が重たい印象でしたが、これが改善してリアとのバランス感がよくなり、垢抜けました。
メッキの使い方も上手くなっています。ゴテゴテ感がなくなり、スッキリと上質になりました。
アテンザのフォルムは空力をしっかりと意識していることがわかります。ルーフラインからトランクリッドのダックテールの処理や、Cピラーからリアフェンダーにかけてのラインなど、後方に空気の渦を巻き込まない形状をしています。
リアフェンダーの上部に「棚」がありますが、これが重要。Cピラーに沿って流れた空気がボディサイドの風とぶつかり合ってできる渦を減らしています。
レクサスESも同じ部分を見ると、同様の処理していることがわかります。空力を追求していくと、同じような形状になっていくのは当然のことなのです。
トランクリッド後端のデザインも同様。アテンザはリッドそのものをダックテール形状にしてコストを減らす処理をしていますが、ESは別体のスポイラーを装着し、コストをかけ同等の空力効果を作っています。
この2台、もちろんディテール(装飾)の仕上げは違いますが、セダンボディとしての基本的なフォルムや取り組みは多くの部分が共通しています。
いつも言っていることですが、クルマの基本的な形状というのはエンジンの搭載位置が決まり、室内の乗員配置とクラスとしての広さと積載性、を決めれば、自ずとフォルムは決まってくるのです。
従来は無駄な部分が多かったので、やれ「デザインのために……」などと言っていたのですが、技術進化により無駄をそぎ落としエッセンスを抽出していくと、レース車のように最終的には同じようなフォルムになっていくのは当然なのです。
フロントセクションを見ても基本的なフォルムのエッセンスは両車同じです。せいぜい先端部数cm程度の違いでしかありません。
また、両車共にフロント周りは空力性能の追求というより、それぞれのアイデンティティの表現を重視したデザインといえます。
ESのフロント周りは空力を重点に作られているかといえば、答えはNoです。先端部を出っ張らせ、段差が強く、多くの渦が発生しやすい、空力的に不利なことはわかっているのでしょう。
でもレクサスのアイデンティティを表現する「顔造り」を優先した。これはアリだとは思います。
アテンザも同様です。センターのグリルからヘッドライトの部分で大きく後方に傾斜させた形状をしていますが、これでは上に流れる風と横に回り込む風がそれぞれ剥離してしまい後方に渦ができるため空力には不利です。
「マツダ顔」を作るためにはこの造形が必要だったのでしょう。こちらも同様に理解できます。
両車共にアイデンティティの表現が優先された前顔と、タイヤハウスや床下の処理をあわせて見ると、ムービングベルトタイプ風洞で計測したら恐らくCd値は0.3を下回る程度と予想されます。
前顔のアイデンティティがより確立されているベンツやBMWのセダンが0.22〜0.23ですから、高速燃費や雨中走行の安全性を考慮すると両車もう少し空力技術追求は頑張ってほしいところです。
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