手回り品を除いた、ちょっと大きめな荷物を置ける場所……現在のハイデッカーなら、床下にトランクルームがあるが、それ以前の荷物スペースにはどんな歴史があって、どのような置き方をしていたのであろうか。
文・写真(特記以外):中山修一
■“野ざらし”がデフォルトな屋根置きスタイル
過去に遡ってバスの荷物スペースを軽く調べていくと、「屋根」というパターンが、国内外合わせ20世紀前半のバスでちょくちょく出てくる。
大昔に主流だったフロントエンジン式のバス車両は車体が小さかったため、車内に持ち込める、または積み込める荷物のサイズはずっと限られていた。
とはいえ大荷物を抱えた利用者もいたはずだ。それに対応するとなれば、空いている手頃なスペースとして屋根に目が向けられるのは自然な流れだ。多くの場合はカゴ状のキャリアとハシゴが取り付けられていた。
キャリアにカバーの類は基本的に付いておらず、置いた荷物は剥き出しの状態になる。屋根に荷物を載せるという発想自体は馬車の時代から実用化しているもので、キャリア付きバスはそれに倣っていた、とも考えられる。
1950年代頃からバス車体が大型化し始めると、屋根置きタイプは次第に見られなくなる。不安定で落下の可能性があり天候にも左右されること、車両の背が高くなり積み下ろしがしづらくなった等が衰退の要因かもしれない。
今日でも、車体から荷物が横方向にはみ出さないように載せつつ、地上からの高さが3.8m以内に収まれば、バスにルーフキャリアを取り付けて屋根置きにしても問題ない。
とはいえ、日本の道交法に則って運用するなら、マイクロバスくらいの車体サイズを超えると現実味が一気に薄れる。ちなみに東南アジアをはじめ海外では、大型車だろうと問答無用で大量の荷物を屋根積みするのは日常茶飯事らしい。
■長距離移動のド定番、床下置き
それなりに荷物が大きくなる長距離・長時間の旅行の移動手段によく選ばれる、高速バスや空港連絡バス等、高速・貸切車の荷物スペースでザ・標準と呼べるのが床下置きだ。
高速・貸切車は背が高く、座席とシャーシの間に空間が作れる。そこにトランクルームを配置すれば、スペースの有効活用になるほか、走行中に荷物が落下してしまう心配もない。特に安定性の高い収納方法と言える。
床下置きはキャブオーバーと呼ばれる箱型車体に向いたレイアウトで、いち早く採用したのは、やはり欧米だ。アメリカの長距離都市間バスのグレイハウンドでは、1930年代で既に床下トランクの付いたバス車両を走らせている。
日本も海外も、どちらかと言えば、比較的長い距離を走行するバスに床下置きを採用する例が多い。例えば1960年代に登場した国鉄ハイウェイバスでは、はじめから床下にトランクを設けた車両を導入している。