直6、3Lツインターボで340psのGRスープラが5月に登場する。
さぁ、これから盛り上がろう! という時に水を差すようで申し訳ないのだが、ハイパワー車の未来は相当暗いと言われているのはご存知だろうか。
カギを握るのは2021年から始まる欧州の新規制。クルマのCO2排出量に対する規制が、ここを境にどんどん強化されていくのだ。
※本稿は2019年2月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年3月26日号
■2021年以後も 段階的に引き上げられていく規制値
欧州の新規制について、もうちょっとだけ詳しく説明しよう。
現在のCO2排出量の規制値が「130g/km」なのに対し、2021年には「95g/km」まで強化される。CO2の排出量と燃費はリンクしており、この数値は燃費でいえば「24.4km/L」に当たる。
しかも、昨年から実施されている、燃費数値が低めに出るWLTPモード(日本ではWLTCモード)で達成しなければならないのだから厳しい。
さらに2025年にはそこから15%、2030年には37.5%のCO2排出量削減が義務づけられる見通し。欧州自動車業界の反対はあるものの、地球温暖化対策という「錦の御旗」があるかぎり、そのシナリオは実現に向かっていく可能性が高い。
この95g/kmというのは全体の規制値で、メーカーごとに車種ラインナップの特徴や販売規模を考慮した規制値が設けられている。
たとえばトヨタは94.3g/km、ルノー日産は92.1g/km、VWは96.3g/km、ダイムラーは100.7g/km、BMWは100.3g/kmといった具合。
小型車を中心とするメーカーと、大型車中心のメーカーで同じ規制値を当てはめるのは無理があるとの判断からだが、いずれにしても、その規制値を超えた場合、メーカーは1g超過あたり95ユーロ(約1万2000円/台)の罰金が課せられる。
さて、結論から言うと、いきなり特定の車種が「はーいこのクルマもうダメでーす売れませーん」とされることはない。ないのだが、規制の枠が徐々に狭められていくなかで、ハイパワー、300psオーバーのクルマたちは今以上にその存在意義を問われていくだろうし、その中で消えゆくクルマもあるだろう、ということなのだ。
■日本のハイパワー車たちが「絶滅危惧種」指定になる!?
さて、日本のハイパワー車たちは、この規制のなかでどうなっていくのか?
今、日本の300psオーバー車は、限定車を除くと下の表の28車種となる(発売前のGRスープラを含む)。
すべてエンジンのパワー表示が300psを超えているクルマたちで、ハイブリッドのシステム出力が300psを超えているクルマはほかにも存在するが、ここでは対象としていない。
下の表はその28車種をCO2排出量が少ない順に並べたものだ。すべてメーカー公表値で、1車につき複数の数値があるものは最も低い数値を掲載している。
そのなかで最もCO2排出量が少なかったのはスカイライン350GTで、306psのV6、3.5Lエンジンを搭載するハイブリッド。2位は同じパワーユニットのフーガハイブリッドとなった。
スカイラインには211psの2L直噴ターボエンジン車もあるが、こちらのCO2排出量は171g/km。211psよりもオーバー300psハイブリッドのほうが3割以上も排出量が少ないのだから、やはりハイブリッドの威力は大きい。実際、上位5位まではすべてハイブリッド車が並んでいる。
なかでも注目したいのはセンチュリーだ。381psものパワーを誇るV8、5Lエンジンを搭載しながら、CO2排出量は171g/kmに抑えられている。
レヴォーグ&WRX S4やシビックタイプRなどの2Lターボ車よりも優秀なのだから、THS(トヨタハイブリッドシステム)の凄さを改めて感じさせる。
■NSXはめっぽう高いが性能も高い
こうして並べてみると、300psオーバー車のCO2排出量は200g/kmがひとつの境目のように思える。それよりも少なければよく、高ければ悪い。あくまでもイメージにすぎないが、そういう境界線が頭に浮かぶ。
その境界線で話を進めるなら、NSXの優秀さは群を抜いている。187.2g/kmはランキングでは8位だが、エンジンパワーは507psもあり、モーターと合わせたシステム出力は581psに至る。それでいてこの数値の低さは驚異的といえるだろう。

NSXはエンジン507ps、システム出力581psでCO2排出量は187.2g/km。優秀だが残念ながら高すぎる
しかし、車両価格は2370万円。凄いのは確かだが、一般ユーザーが購入対象にできる価格ではない。
そこで注目されるのがスバルの水平対向4気筒、2Lターボエンジンを積むレヴォーグとWRX S4だ。
ハイブリッドではない普通のガソリンターボだが、燃費効率に効く直噴エンジンということもあり、CO2排出量は176g/kmに抑えられている。
スバルの水平対向エンジンは、構造上、低速トルクを出しにくいショートストロークとなるため燃費が弱点とされているが、300psクラスでは優秀であることを実証している。
今後スバルは1.5Lと1.8Lのダウンサイズターボを主力としていくことになっており、パワーとエコ性能の両立がさらに進むことが期待できそうだ。
■ダウンサイズターボは有効なのだが……
CO2の排出量が200g/kmを超えるものの、レクサスGS350&RC350、アルファード/ヴェルファイア3.5も悪くない。直噴とポート噴射を兼ね備えたD-4Sシステムを採用することで、215〜217g/kmと比較的低めに抑えられている。
また、純ガソリンターボエンジンのレクサスLS500はV6、3.5Lツインターボ、422psのハイパワーでCO2排出量は228g/km。従来のV8、5L NAエンジンに置き換えたエンジンだが、このレベルのパワーになってもダウンサイズターボが有効なのがよくわかる。
ちなみに、GRスープラのCO2排出量は未発表だが、同じ3Lツインターボエンジンを積む兄弟車のBMW Z4 M40iは165g/kmと発表されている。GRスープラの数値がその近似値になるとすると、日本のオーバー300ps純ガソリンエンジンのトップに躍り出ることになる。
このように将来性を感じさせる純ガソリンエンジン車も散見されるが、そうはいってもEU2021年規制の目標値であるCO2排出量95g/kmと、その後さらに強化される目標値にはほど遠い数値ばかりだ。やはり、これからはハイブリッドやプラグインハイブリッドが不可欠のアイテムとなっていきそうである。
クルマの電動化はエコカーだけでなく、ハイパワー車にも避けられそうにない。上の表で下位に沈んでいるクルマたちは、もはや絶滅危惧種ということになる。