アウトバーンを電気ライオンが走る
ライオンのエンブレムをトレードマークとするMANは、新型eトラックのメガワット充電(1MWクラスの大電流による急速充電)についても、技術的には既に準備ができているとしているが、安全性などの確認が必要となるため実際に利用できるのは2025年以降になると予想する。
長距離輸送は一日に約600~800kmを走り、中には1000kmを走るドライバーもいる。こうした輸送に対応するためには道路の沿線にトラック用の充電網が整備されている必要がある。
もちろん電動化に適しているとされる他の領域、例えば都市部での低騒音・ゼロ排出でのゴミ収集とか、有機農家のミルクを運ぶタンクローリなどの輸送は、BEVトラックでも問題なくこなせるだろう。欧州は輸送のトラクタ化が進んでいるので、日本より導入コストも低い。
MANの大型電動トラックは2024年からミュンヘンで量産を開始する。製造ラインはディーゼルトラックと同じラインに流す混流生産だ。この生産方式を採用するメリットはBEVトラックの需要が急激に増えたとしても柔軟に対応できることと、ディーゼル車を必要とする顧客の要望にも応えられることだ。
2025年末までに2500台の電動トラックをミュンヘンから出荷する見込みで、欧州ではラジエターグリルにライオンマークを頂く大型BEVトラックは2030年までに4万台に達する予想。これはMANの年間の製造台数のおよそ半分となる。また、トラック用バッテリーもニュルンベルクの自社工場で製造する。
MANは新しいBEVトラックでゼロエミッション戦略を推進するとともに、商用車、特に大型長距離輸送のゼロ排出に向けた変革を行なって行くとしており、電気ライオンがアウトバーンを走る日は、すぐそこまで来ている。
不得手とされた長距離輸送でなぜ電動化が進んだのか?
車両の電動化は世界的なトレンドだが、大型車や長距離輸送はBEVの苦手な領域とされ、乗用車や小型トラックからEV化が進められてきた。しかしこのところ、欧米のメーカーでは長距離輸送用大型トラックの電動化が一気に進み、特に欧州のトラックメーカー大手7社はいずれもBEVモデルをラインナップする。
ダイムラーであれば「eアクトロス」と「eアクトロス・ロングホール」、ボルボはフラッグシップの「FH」を始め各車に電動モデルを展開、ルノーは「T・Eテック」及び「C・Eテック」、ダフは「XFエレクトリック」及び「XDエレクトリック」、スカニアは大型キャブの「R」や「S」シリーズにも電動モデルを設定している。
イヴェコはアメリカのニコラと提携し「Sウェイ」をベースとする「トレBEV」をラインナップしており、MANが「eトラック」を発売すれば欧州系のトラックメーカー全社が長距離輸送の電動化に向けて準備完了となる。
急速に電動化が進展した背景には、運用面における政策的な後押しがあればBEVトラックによる長距離輸送がコスト競争力を持つという事実がある。
長距離輸送の大部分を占める幹線輸送は、走るルートがほとんど変わらない。このため物流利用の多い一部の幹線道路だけに絞って優先的に充電施設を整備することで、台数の多い長距離輸送を先行して電動化できる。予算には限りがあるのでインフラ投資の効率化は重要だ。
また、トラックドライバーの働き方として日本に「430休憩」(4時間走ったラ30分以上休憩という改善基準告示の規定)があるように、欧州では「4.5時間走ったら45分以上休憩する」という法定休憩時間の規定がある。長距離輸送の電動化にとっては、この規定も有利に働いている。
高速道路に大型車用の休憩施設(駐車場)と急速充電器を一体的に整備すると、休憩中に充電できるので長距離BEVトラックが1充電で1000km走れるような大量のバッテリーを積む必要はなくなる。時速80kmで4.5時間走ると航続距離は360kmなので、充電器さえ足りていれば45分間の休憩時間の充電でも航続距離は充分回復するのだ。
さらに、競合するメーカーが充電インフラでは提携しており、MANが属するトレイトングループも、競合するダイムラーやボルボなどのトラックグループと協力している。既に欧州の自動車専用道路や物流ハブ周辺に1700の充電施設を整備してきたという。
また、トレイトンは長距離輸送トラック用に高規格充電網の整備を目指す「HoLa」プロジェクトにも参加しており、このプロジェクトでベルリンとルール地方を結ぶ連邦高速2号線(アウトバーン2)沿いに急速充電網を整備する予定だ。この路線を利用する長距離輸送トラックは、間もなくメガワット充電も利用できるようになる。
長距離輸送用の大型トレーラは、欧州の大型車で最も台数の多いボリュームゾーンだ。そのセグメントでBEVがディーゼル車に対して競争力を持ち始めているため、メーカーも電動化を急いでいるワケだ。
トラックは経済活動のための生産財なので、利益を生むとわかれば一気に普及する可能性がある。今後も欧州のトラック市場を注視する必要がありそうだ。
【画像ギャラリー】マン・eトラックのウィンターテスト&公道試験の様子を画像でチェック!(6枚)画像ギャラリー