■自動車メーカーは5年ぶりの100万円台に!
それを受けて自動車メーカーの2023年夏のボーナス額は総じて高水準だった。大手企業の会員が中心の経団連の調査によると、自動車業界は回答した13社の平均が昨年夏比10.9%増の101万2409円と2018年以来、5年ぶりに100万円の大台に乗った。
業種別のランキングも建設、機械金属、造船に次ぐ4位に上昇。自動車業界は昨年の伸び率が全業種平均を大きく下回る4.1%にとどまっていたが、今夏は賃金アップレースに出遅れたのを一気に挽回した格好である。
また、日経新聞も夏のボーナス額について独自のアンケートを実施しているが、その結果、回答した自動車メーカーをみると、日産自動車が101万4750円、三菱が97万4000円、スズキが90万5420円、マツダが87万6000円などとなっている。
これらは管理職や役員を含まない“ヒラ社員”の平均支給額だが、そう考えると決して悪い数字ではない。
もちろん、世の中にはこれより高額なボーナスを出す企業はいくらでもある。このアンケートでもトップは半導体や精密加工の製造装置を作るディスコという会社で、平均支給額は38.2歳で377万3654円。
住宅メーカーの積水ハウスも37.4歳で178万2000円など、高額ボーナスの企業や業界は枚挙にいとまがない。が、自動車メーカーや大手部品メーカーもこのところの賃上げで以前に比べると労働者目線で魅力を着実にアップさせているのは間違いないところだろう。
■トヨタとホンダの業界トップ2はボーナス支給額を未公表に
が、ここで疑問が起こる。ボーナスの高さでは自動車メーカーのツートップだったトヨタとホンダはどうなっているのか。実はトヨタは近年、ボーナスの平均支給額を公表しなくなった。それにホンダが追随し、トップランナーの数字がわからなくなった。
トヨタがボーナス額の公表をやめた背景には、研究開発、製造、営業、間接部門と、仕事の内容によって賃金に差をつける“ジョブ型雇用”への移行を進めていることと無関係ではない。
これまでも研究開発や経営企画などのホワイトカラーと工場での現業従事者では給与やボーナスに差があったのだが、「今後、その差は拡大する見込み」(トヨタ自動車関係者)という。
その状態で平均値を発表すると、それだけでボーナス額が低く抑えられている職種のモチベーションを下げてしまう。生産現場の努力によって世界有数の品質の高さを保っているトヨタとしては、その事態は避けたいところだろう。
参考までに過去の実績から鑑みた両社の夏のボーナスの支給額はトヨタが140万円、ホンダが130万円程度と推測される。
■人材獲得競争に勝つための待遇改善がこの先も続く
自動車業界が躍起になって給料やボーナスの引き上げを行っているのは前述のように少子高齢化に伴う人手不足のなかで人材獲得競争に打ち勝つためであり、ゆえに今後もこの傾向は当面続く公算が大だ。自動車業界志望者にとっては喜ばしく思われることだろう。
そのぶん自動車メーカーの経営トップにかかる賃上げプレッシャーも格段に大きくなる。いくら人材獲得のために給料やボーナスをアップさせたくても、元手がなければ話にならない。元手を稼ぐためには世界的なクルマの開発競争に勝利し続ける必要があるのは言うまでもない。
三菱の新人ボーナス倍増も昨年のプラグインハイブリッドのSUV、アウトランダーPHEVが快調に売れ、新型軽のデリカミニが2万台の受注を集めるなど連続ヒットで業績が回復したからできたことで、それがなければない袖は振れなかった。
今日、日本の自動車メーカーの利益率は世界的に比べても決して高くはない。前年度に2兆7000億円もの営業利益を叩き出したトヨタにしても、その率にすれば7.3%。電気自動車(EV)最大手の米テスラ、それに独メルセデスベンツやBMWなどのプレミアムブランドはもとより、大衆車メーカーの仏プジョー、シトロエン、フィアットなどを擁するステランティスでも10%をはるかに超える。
メインの四輪事業が実質赤字のホンダは論外としても、円安の追い風を受けながら、営業利益率がひとケタ台というのはいただけない。この先も賃上げやボーナス増を継続して行うことができるかどうか。まさにEVシフトが加速するなかで経営トップの先見の明、リーダーシップが試されている。
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