周囲からの冷たい視線が辛い……悪夢の事故 伝説の白バイ隊員最悪の日とは?

周囲からの冷たい視線が辛い……悪夢の事故 伝説の白バイ隊員最悪の日とは?

 警視庁に在籍した33年間中、実に22年間もの日々を白バイに捧げた元警察官の洋吾(ようご)氏。取り締まり件数において3年連続で警視庁トップに輝き、警視総監じきじきの表彰も受けた伝説の白バイ隊員だ。洋吾氏の警察時代の悲喜こもごも、厳しくも「とほほ」な日常を綴った著書『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』も上梓(小社刊)。

 今回はそんな洋吾氏でも足を掬われてしまった一瞬の油断。勤務中に自らが引き起こしてしまった四輪車との接触事故とその顛末について語ってもらった。

文/洋吾、写真/Adobestock(メイン写真=moonrise@Adobestock ※画像はイメージです)、ベストカー編集部

■一瞬の油断 白バイ乗り最悪の日

それは、なんでもない日常業務の警ら中に起こった(※写真はイメージです moonrise@Adobestock)
それは、なんでもない日常業務の警ら中に起こった(※写真はイメージです moonrise@Adobestock)

 私の白バイ人生のなかで消し去りたいほどの黒歴史といえば、白バイ警ら中の事故だ。できれば思い出したくもない記憶だが、私の失敗を他山の石としてもらうべく、ここで明らかにする。

 旧三交機卒業間近、私が班長(巡査長)だった頃のことだ。

 頭の中で「今度の異動時期でおそらく転勤。しばらくは交番勤務で、白バイに乗るのもお預けかな……」なんて思いながら走っていたのをハッキリ覚えている。

 走り慣れた国道の、とある交差点での信号待ち。進路前方には大小のバイクたち、その後方では四輪たちも信号待ち、青信号と共に一斉にスタートという状況だった。白バイ乗りからすれば、いずれかの車両が獲物になるであろうと思われる、最高にヨダレダラダラの条件である。

 後方に位置する私も青信号と同時に加速してバイクたちを追う。ターゲットは飛び抜けて速い大型バイクか、それとも原付か……。とりあえずバイク群に追い着くため四輪らの間をぬって前方へと加速する。

 と、その時、一瞬であった。

 進路前方、右隣りの車線を走っていた四輪車が左ウィンカーを点滅させたと同時に、いきなりの車線変更。さらに左折しようとしたのだ。まったく予想外の動きに「ウソだろ!?」と、反射的にフルブレーキングしたものの間に合わず、四輪車と接触、転倒してしまった。

 後に判明した事故の概況では、相手の四輪車は進路変更後、更に道路外の施設へ入ろうとしたところだったという。左後方不注視だった。

 しかし私は私で、先を行くバイク群に集中し過ぎ、不測の事態を予測しないまま、急激な追い上げをかけてしまっていた。普段ならば、常に気を付けていることなのに、この時は気を付けていなかった。だから事故ってしまったのだ。

 この後の記憶は断片的だ。

 鈍い音と共に私は宙を飛んだ記憶があるが、その時の空中からの光景は記憶にない。直後、身体が何かにぶち当たった(後に8mほど離れた歩道上の花壇と判明)。そして身体全体に衝撃、地面にドタリと落ちて、仰向けだったのは記憶がある。

 起き上がらなければという思いはなかった。失神状態に近い状態のなか、「何で! 何で! 合図を出してたでしょ!」と興奮した年配の女性のかん高い声が聞こえていた。それに対して「今はそんなこと言ってる場合じゃないよ!」と今度は年配の男性の声。そっか、この年配の夫婦のクルマと事故ったのか……と私はその時理解した。

 そして、国道を往来する車両の騒音の中で、救急車のサイレン音が聞こえてきたのも覚えている。「やけに早いな」と思ったが、どうやらこれは少し失神状態だったため時間が早く感じられたらしい。

 時間の経過と共に意識がはっきりしてきたので上半身を起こすと、さきほどの年配の男性が白いタオルを私の顔に当てていたのが分かった。どうやらたいした量ではないが顔面から出血しているらしい。ゴーグルが眉間を突いて数針の裂傷だった。

 しかし、私の心は傷のことよりも事故に対する後悔でいっぱいだった。当時の担当白バイは、新車で受領してまだ11カ月目のVFR750P。破損状況を確認する余裕などなく、「すまんVFR」という思いだった。

 結果的にこの時が愛車との最後のお別れとなった。あっけないものだった(ちなみに白バイは修理再生可能だったとのこと)。

 ちなみに、このような警察車両、とりわけ大型の白バイは、ただでさえ存在感が大きい。それが事故を起こして大転倒、ひっくり返っている姿は異様そのものだ。見なくてもよい人まで引き寄せてしまうのだ。

 そんな醜態を隠すのが、真っ先に現着した所轄PCの役割である。車載のブルーシートで素早く覆い隠す。後に白バイ仲間から聞いた話では、通りかかった時にはすでにブルーシートがかけられていたとのこと。そして、私が倒れたままだったので、重傷でやばいという噂が流れていたという。

 いっぽう、当の私はといえば、救急隊の到着を待つ間も、この白バイ事故のために部隊にかけてしまうであろう迷惑のことで頭がいっぱいになっていた。それこそ身体の痛みなど忘れてしまうほど、ガックリ落ち込んでしまっていたのだった。

次ページは : ■冷ややかな視線 失意の日々… そして復活の日

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