周囲からの冷たい視線が辛い……悪夢の事故 伝説の白バイ隊員最悪の日とは？

■冷ややかな視線 失意の日々… そして復活の日

　救急隊が到着したら後はもう担架で救急車内に運ばれ、警察官御用達である東京警察病院に直行だった。

　肝心な身体のダメージのほうは、左肩脱臼、眉間に裂傷、その他軽度の打撲などで、私自身としては思ったよりは軽いと思った。冬季だったので生地が厚い革ジャンの制服着用が幸いし、身体をかなり保護してくれたようだった。

　その後は12泊13日という長すぎると思うような入院生活、その間に手術と、どちらも余計な初体験だった。退院後は転勤遅れによる一人みじめな残留隊員生活も体験した。そう、私は交機卒業直前での事故ということで、完治するまで転勤延期の措置となっていたのだ。

　退院後はしばらく三角巾固定による片手吊り下げ生活だったので、自宅休養、もしくは出勤しても庁警専従の毎日だった。命に別状はなく、脱臼だけで済んで心配の必要なしってことなのか、周囲からは転勤遅れのドジな班長として冷ややかな視線を向けられたものだった。

　死亡事故や重傷事故以外は、「バカ」「ドジ」扱いというのが、事故った者の宿命だった。

　定期異動のこの時期、上司が部下たちに指示する定番の勤務重点（勤務する上で特に念頭にすべきこと）に「異動期における各種事故防止」があるが、私はその勤務重点に対して、教科書どおりの悪いお手本をやってしまったのであった。

　また、新しく赴任した交通部トップのお偉いさんが、「交通違反取り締まりのプロである白バイが事故を起こすことがないように」などと赴任挨拶で述べたその矢先というタイミングも悪かった。加えて、担当白バイが新車で受領してわずか1年未満だったというのも、追い打ちをかけた。とにかく、すべてが最悪のタイミングだったわけである。

　事故日から約3カ月後、ほぼ完治ということで、私は某警察署へと異動となった。本来の時期より1カ月遅れである。念願の白バイデビューを果たして8年と7カ月、慣れ親しんだ旧三交機のラストは、苦い思い出の卒業だった。

　事故後は、もう二度と白バイには乗れない、これからはずっと交番勤務か……などと落ち込みまくった日々だった。しかし、そんな私を叱咤激励してくれたのが、転勤直前の旧三交機のお偉いさんだった。

「白バイを降りる」と落ち込む私に対して「バカ言っちゃいかん、これからもっとたくさん仕事してもらわないといかんのに」と。

　組織的には私は切符切りマシンの1人であって、「治ったならすぐにでも稼動させろ」というのがその発言の本音だったのだろうが、私としては、これがきっかけで前を向くことができた。「また乗ってもいいのか」と。もしこの時、逆のことを言われていたら、ここで私の白バイ人生は終わっていたかもしれない。

　そして心身共に完全回復する頃には、白バイ復帰を強く願うまでになっていた。そして半年ほどの交番勤務の後、地域係から交通執行係への配置換えを経て、所轄の白バイ乗務員として復帰することができたのだった。悪夢の事故から約9カ月だった。

　事故後の白バイでの走行に恐怖心はまったくなく、改めて心底、私は根っからの白バイ好きなのだと思ったものだ。事故直後、白バイ卒業について本気で思い悩んだことなどどこへやら、その後も私の白バイ人生はしぶとく続くことになったのだ。

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●洋吾（ようご）：元警視庁の警察官。交通機動隊や警察署の白バイ隊員を長く務める。運転技術はいまいち、ドジでオッチョコチョイだが、3 年連続で取り締まり件数トップの実績もあり。ブログ「脱公務員の部屋・元白バイ乗り親父の話」を公開中。2022年10月『白バイ隊員 交通取り締まり とほほ日記』を上梓。同書のイラストは同ブログのマスコットキャラクター「ニャンコ白バイ隊」。