スズキ史上最高級車!? キザシが遺したもの 【偉大な生産終了車】

スズキ史上最高級車!? キザシが遺したもの 【偉大な生産終了車】

 毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。

 時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。

 しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。

 訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスズキ キザシ(2009-2015)をご紹介します。

文:伊達軍曹/写真:スズキ、ベストカー編集部


■「新しいスズキ」を告げるべく誕生した初のプレミアムセダン

 2008年の3月までに3種類のコンセプトモデルはいちおう発表されていたものの、2009年10月の東京モーターショーのプレスデー初日に何の兆し(きざし)もなしにいきなり発表され、しかも同日いきなり発売されたDセグメント(BMW 3シリーズぐらいの車格)の4ドアセダン。それがスズキ キザシです。

 キザシというなかなかしゃれた車名は、「世界の市場に向けてスズキが新しいクルマ作りに挑戦する“兆し”」という意味で付けられました。

 搭載エンジンは、当時のエスクード譲りの2.4L直列4気筒DOHC。その最高出力はエスクードを22ps上回る188psです。

車格感のある力強さが表現されたエクステリア。最高出力138kW(188PS)、最大トルク230N・m(23.5kgm)のJ24B型エンジンを搭載

 トランスミッションはCVTのみで、サスペンションはフロントがストラットのリアがマルチリンク式。駆動方式は2WD(FF)のほかに4WDも用意されました。

 後輪サスペンションは前述のとおりマルチリンク式という立派な方式でしたが、キザシはボディサイズも立派でした。

 具体的には全長4650mm×全幅1820mm×全高1480mmで、この数字は同時期のBMW 3シリーズ(E90型)より「ちょっと大きい」といったニュアンスです。

 肉眼で見るキザシは結構コンパクトに感じるのですが、それはボディ各部のエッジが徹底的に排されたデザインだからでしょう。実はわりと堂々たるサイズだったのです。

ヘッドランプからリヤコンビランプまで張りのあるショルダーラインが取り入れられた。リヤのトランク周りのデザインは、抑揚を持たせ空力特性と造形美を両立

 スズキ初のDセグメント車であったキザシは装備類もなかなか充実していました。運転席のニーエアバッグを含めて合計9個ものエアバッグが標準で備わり、運転席と助手席のパワーシートはそれぞれ10ウェイと4ウェイ。

 ちなみにシート表皮はダブルステッチ入りの本革です。

 そんな意欲作だったキザシですが、残念ながら売れる兆しはまったく現れず、2015年12月をもって販売終了となりました。

■志高くも「企業の提携」という大人の事情に翻弄された一台

 スズキ キザシが1代限りで生産終了となってしまった理由。その一端は「当時のスズキとGMの関係性」にあったといえるでしょう。

 スズキとGMは1981年8月に資本・業務提携を締結しました。

 GMの業績が悪化した2006年には出資比率を20%から3%に引き下げたわけですが、キザシの開発プロジェクトが始まった頃(最初の「Concept Kizashi」が2007年のフランクフルトショーで発表された頃)は、まだいちおう提携関係にありました。

 そのためスズキは「いっちょうプレミアム4ドアセダンってやつを作り、GMと組んで主に北米で売ったろうじゃないか!」と考え、とりあえずはキザシのプロジェクトを始めてみたのでしょう。

スポーティーでありながら工芸品を思わせるインテリアを目指した、センターコンソールやサテンメッキのインパネ加飾

 しかしスズキとGMの資本提携は、2008年11月には完全解消となりました。となると、ある程度進んでいたキザシプロジェクトは「宙ぶらりんになってしまいます。

 が、ここまで作ってしまった車を中途半端な宙ぶらりん状態のままにしておくわけにはいきません。損失が確定するのを承知でプロジェクトを完全にやめるか、いちおう完成させ、いちおう売ってみるかの二択になります。

 スズキは後者を選びました。日本で売り(受注生産でしたが)、北米でも発売し、そして欧州と中国にも投入したのです。

 しかし車の出来が(Dセグメントとしては)完全ではなかったせいなのか、宣伝が足りなかったからなのか、それとも各国のユーザーはスズキという会社に「高級セダン」なんてモノは望んでいなかったせいなのかはわかりませんが、とにかくキザシの販売はパッとしませんでした。

車体各部に吸音・遮音対策が施され、スズキ初となる9個のエアバッグを標準で装備

 そのためスズキは「ダメだこりゃ」という感じで “損切り”を決意。北米市場からはとっとと撤退し、国内の在庫は日本の警察に捜査車両として900台ほどを押し込むことで、ある程度処理したのです。

 このあたりの決断の速さというか柔軟さは、スズキという会社の美点のひとつだといえるでしょう。

 でもちょっと柔軟すぎて、キザシというちょっと謎なDセグメントセダンも生み出してしまったことは、良くも悪くも「スズキっぽい」のかもしれません。

■スズキ キザシ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4650mm×1820mm×1480mm
・ホイールベース:2700mm
・車重:1490kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、2393cc
・最高出力:188ps/6500rpm
・最大トルク:23.5kgm/4000rpm
・燃費:12.6km/L(10・15モード)
・価格:278万7750円(2009年式 2WD)

◎ベストカーwebの『LINE@』がはじまりました!
(タッチ・クリックすると、スマホの方はLINEアプリが開きます)

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

終売が報じられたマツダ6はこのまま終わるのか? 否!! 次期型は和製BMW3シリーズといえるような魅力度を増して帰ってくる!? 注目情報マシマシなベストカー4月26日号、発売中!