■いかに敵艦の動きを正確に知るか
発射した魚雷が目標に対し命中するためには、目標の速度(的速)、針路(的針)、方位角などといった敵艦の航程が分からなければならない。目標の動きを知り、それに基づいて魚雷を調定して発射しなければ、たとえ発射後に誘導が可能な有線誘導魚雷だったとしても命中させるのは難しいだろう。
魚雷を目標の未来位置へ向かって発射し、最終的に目標の航程と一致しなければ命中しないからだ。しかもこの海面下の戦いでは互いの運動が三次元的になり、相手の動きを予測するのは難しい。
そこで海中を移動する目標の運動を知るために目標動静解析が行なわれる。目標動静解析とは、パッシブ・ソナーを使用して目標の位置を決定するプロセスのことである。異なる時間に音がどの方向から聞こえるかをプロットし、その動きを自艦の動きと比較することで行われる。
もう少し詳しく説明すると、潜水艦が装備する複数のパッシブ・ソナーを使用することで、時間の経過によって目標の方位やそれがど程度の速さで変化しているか(方位率)、遠ざかっているのか近づいているのか(ドップラー変位による射程率)などの測定データを収集、さらに目標との相対関係をより明確にするために自艦をジグザグに変進したり、速度を変えながら航行・追尾することで距離(射程)を測り、集めたデータを基に計算して得られる目標の推定位置と自艦の位置を作図盤上にプロットしていくのである。
そして図上にプロットされた点を結んで目標の運動を示す曲線を描いていくのだが、この時、単に点を結ぶのではなく目標動静解析用の特殊なスケールとコンピュータにプログラムされた資料に基づいて計算を行ない、曲線を決定していく(昔は曲線を描くのは作図する人間の経験だけに頼っていたため誤差が大きかったという)。こうして作図された目標の運動曲線をもとに魚雷発射管制諸元(的針、的速、的長、方位角、深度、自針、自速など)が求められる。
■高度に自動化が進む潜水艦の戦い
現代の潜水艦では複数のパッシブ・ソナーを装備し、コンピュータと組み合わせることでソナー・システムを構築しているので、かなり精度の高い情報を収集できる。目標動静解析もコンピュータが計算する自動解析システムにより、作業に要する時間は大幅に短縮され、解析精度も向上している。
それでも静音化がより進む現代の潜水艦ではパッシブ・ソナーによる探知・追尾が難しくなっており、目標動静解析の作成作業にはかなり時間を要するという。
目標動静解析によって集められた相手の魚雷発射管制諸元は発射管制員に回され、魚雷にインプットされる。かつてはこうした操作の大半は、直接人間の手を介して行われていた。
しかし現代の潜水艦には統合戦闘システムが導入されているため、ソナーなど情報や目標動静解析などの戦術状況情報は、発令所にある多機能ディスプレイ上に映し出される。艦長や兵装などの担当管制員は刻々と変化する状況を見ることができ、攻撃に最も適した武器を選択し、情報のインプットもキーボードで行える。武器の遠隔操作も可能だ。この間、武器の操作員は艦長が選択した武器がいつでも使用できるように準備している。たとえば魚雷を選択したなら、必要な魚雷を発射菅に装填するだろう。
ちなみに統合戦闘システムは、これまで人間が操作していた各種装置や装備をコンピュータによって統合管理することで、状況に最も適した装置や装備を使用して情報を集め、艦長が必要とする情報を提供し、艦長が攻撃を決断したときには最も効果的な武器を選択・使用できるようにする。ただし原子力潜水艦と通常動力潜水艦では使用できる電力の違いがあるので、統合戦闘システムの能力も異なっている。
ここで魚雷発射に必要な条件がそろったところで、魚雷は計算された目標の未来位置に向かって発射されるわけだ。
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