「冬用タイヤ」といえば、昨今はスタッドレスタイヤが当たり前だが、かつては国内の一般道でも、タイヤに鋲(びょう)を打ち込んだ「スパイクタイヤ」が使われていた。
現在では、モータースポーツの世界や一部の車両にのみ許されているスパイクタイヤ。なぜスタッドレスタイヤに取って代わったのか!? スパイクタイヤのあれこれを雪国出身の筆者がご紹介しよう。
文:立花義人、エムスリープロダクション
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発進時やブレーキ時に効果を発揮するスパイクタイヤ
タイヤのトレッド面に金属などの鋲が無数に打ち込まれているスパイクタイヤ。積雪路面、氷結路面ではスパイクが路面に食い込むことで滑り止めの効果が得られ、特に発進時やブレーキ時に効果を発揮する。野球やサッカーのスパイクシューズが地面に食い込み、しっかり踏み込んでパフォーマンスを発揮するのと同じ効果だ(シューズほどしっかり飛び出しているわけではないが)。
現在冬用タイヤとして主流のスタッドレスタイヤは、低温下でも柔らかさを維持するゴムを使用し、路面と接触する部分に無数の細かい溝が刻まれている。スタッド(鋲)レス(ない)という名前の通り、鋲ではなくゴムの質と溝の機能を使って雪や氷をつかみ、グリップを確保するものだ。
冒頭でふれたように、かつては国内の公道でもスパイクタイヤが一般的に使われていたが、現在はほとんど使用されていない。ただ北欧の一部の国や地域では、いまでも使用されているし、ラリーなど競技専用としてもつくられている。
スパイクタイヤによって削られたアスファルトの粉塵が問題に
スパイクタイヤは1950年代に北欧で登場した。60年代には欧州全体に普及し、1963年には日本でも国内販売が開始されている。70年代に入ると全国の積雪寒冷地で本格的に普及したものの、80年代には製造販売が中止に。スパイクタイヤによって削られたアスファルトの粉塵が、人体に悪影響を及ぼすことが明らかになったためだ。筆者は子供の頃、北海道で生活をしていたが、雪解けの時期には道路脇には「車粉」とよばれていた黒くて汚い泥のようなものがたまっており、独特のほこりっぽさで、嫌な感じがしたのを覚えている。
80年代後半から、積雪地域を中心に、スパイクタイヤの使用が条例で禁止されるようになっていき、1990年には「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が施行され、指定された地域でのスパイクタイヤの使用が禁止となった。ただ、緊急自動車や一部の自衛隊車両、公安委員会に届けを出した除雪車、身体障害者手帳を持つ者が運転する自動車等に関しては使用が許可されており、全てのスパイクタイヤが禁止されたわけではない。
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