皆さんはサーブを覚えているだろうか。1980年代にはBMWやベンツに対抗するアンチドイツ車として一世を風靡したのに近ごろはさっぱり話を聞かない。サーブはいまどうしているのだろうか?
文/ベストカーWeb編集部、写真/SAAB
■女子大生が乗りたがる大人気のクルマだった!
航空機メーカー「サーブAB」を母体として、1947年に設立された自動車メーカー「サーブ」。航空機開発で培ったモノコックボディやエアロダイナミクスを武器に、個性的なクルマを続々と生み出してきたわけだが、このあたりの出自はBMWやスバルとも似ている。
サーブというどこかおとなしいイメージを持つかもしれないが、決して実用一辺倒だったわけではない。たとえば1960年代にはWRCで大暴れし、名車「96」がRACラリーで3連覇、モンテカルロラリ―でも2連覇を果たし、その技術力を世界に知らしめた。
いっぽう日本では、バブル期に「サーブブーム」が起きた。好景気に沸いた当時の日本では、メルセデスやBMWが飛ぶように売れたのだが、人と同じものを嫌うクリエーターやファッション業界の人たちが「はずし」としてサーブに乗り始め、これを多くの人がマネしたのだ。
なかでも人気だったのがサーブ900。先代モデル「99」のビッグマイナーチェンジ版のようなクルマだったが、当時まだ珍しかったツインカムターボエンジンを搭載し(ターボ16S)、あなどれぬ速さを示した。
さらにこの900に1986年、カブリオレが追加され、これが若い女性に大人気となった。「女子大生が助手席に乗りたいクルマランキング」なんて企画をやると、メルセデスやBMWを押しのけて、サーブの900カブリオレが上位にランクインしたりしたものだ。
■ドライブ・マイ・カーで再燃したサーブ人気
それにしても当時のサーブ車は、航空機に由来することを強く主張するクルマだった。衝立のようなインパネは飛行機のコックピットみたいだったし、鍵穴はセンターコンソールにあった。
今では信じられないが、なんどサイドシル(ドアの下の敷居のような部分)もなかった。サーブは雪国スウェーデンのクルマだから、靴に付いた雪を車外に落としやすいようにする配慮だったといわれる。
そして時は21世紀。ここでサーブの再評価に絶大な貢献をしたのが、村上春樹の短編小説を映画化した「ドライブ・マイ・カー(2021年)」だろう。
西島秀俊演じる舞台演出家の乗る劇中車として、サーブ900が重要な役割を果たしており、あの映画を見て、現代にサーブ車がない喪失感を味わったという人まで現れたのだ。
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