今や車の絶滅危惧種に指定しても良さそうなのが「FR」だ。
FRとはフロントにエンジンを搭載して後輪で駆動する車のこと。どうして筆者が絶滅危惧種に指定するかといえば、一定のサイズ以下のセダン及びハッチバックは「FF」が一般的になってきているから。FFとはフロントにエンジンを搭載して前輪を駆動する車のこと。
直近でも、マークII時代から歴代FRを貫いてきたマークXが、2019年12月をもって生産終了が決定。また、クラス唯一のFRハッチバックだったBMW 1シリーズも、5月27日に新型が発表され、ついにFFへと駆動方式を変更することが発表された。
そこで、本稿ではジャストサイズのFRが消えゆく事情と魅力を解説。その魅力を体現するマークX、そして現行型のBMW 1シリーズも新車で手に入れられる期間は残り僅かとなっている。
文:松田秀士
写真:編集部
なぜ“ちょうどいいFR”消える? 改めて考えるデメリット
なぜ、FF化が一般的になってきたかというと、室内居住空間の拡大を図るため。FFにすることで室内空間は広くなるのです。その理由を説明しましょう。
FR車は後輪に動力を伝えやすくするためにエンジンを縦方向に置きます。
エンジンの後ろにトランスミッションを置き、その後端からプロペラシャフトを後輪方向に出しリアデフで駆動方向を90度変えて後輪に伝えます。
そのため、室内フロアにはトランスミッションのハウジングとプロペラシャフトのためのトンネルが出っ張りとして存在することになります。足元を眺めるとセンターが盛り上がっているのはそのためです。
ところが、FFにするとどうでしょう。まずエンジンは横置きになります。トランスミッションも並列でエンジンの隣に横置き。これは前輪を駆動するため、エンジンからの出力軸が横方向の方が好都合だからです。
エンジンを縦に置くFRに比べて横に置くFFの方がエンジンルームを短くできますね。つまり、その分室内空間を長く広くできるというわけ。だからどんどんFF化が進んできたわけなのです。
それでも代え難いFRならではの「走る・曲がる・止まる」魅力
しかし、良いことだけではありません。エンジンもトランスミッションも横置きにして前に置くことで、車のフロント荷重が後ろに比べて極端に重くなってしまいます。
さらに、FFは駆動輪と操舵輪が同じ。つまりステアリングを切って進路を決める舵(かじ)と動力を伝える駆動を同じ前輪が受け持つこととなるのです。これは大変! 何が悪いのか? タイヤのグリップ力の問題なのです。
タイヤのグリップ力は一般的に縦方向と横方向のグリップ力の「和」なのです。縦方向とは、加速時と減速時のグリップ力。横方向とは、まさにステアリングを切って曲がる(コーナリング)ときのグリップ力です。
この縦と横のグリップの両方を一挙に前輪が受け持つのがFFなのです。
極端な言い方をすると、アクセル全開、或いはフルブレーキをして縦方向を100%使い切っているときには、ステアリングを切って横方向でコーナリングしようとしても曲がりません。いわゆる“アンダーステア”になります。
これに対して、FRはアクセル全開でも前輪は曲がるために横方向のグリップを使い切れます(ブレーキング時を除く)。後輪は加速のために駆動力を使い切れます(コーナリング時を除く)。
つまり、操舵と駆動するタイヤを前後に分担することができるのです。それと前述したようにエンジン縦置きは、前後の荷重配分も良くなるので、曲がる・止まる・加速も理想に近づくのです。
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