昭和、そして平成の前半まで軽自動車は、登録車に比べて室内の広さや性能など、あらゆる面で物足りない部分が多かった。
ところが今や「もうこれ一台で充分。登録車のコンパクトカーと大差ないのでは?」というレベルまで飛躍的に商品力が上がっている。
ホンダの販売店によると「ライフなど従来の軽自動車は、税金が安いために、複数の車を所有する世帯を中心に売れていた。それが今は変わり、現行N-BOXは、一家に1台だけ車を持つ都市部でも好調に売れている。月別の販売動向を見ると、東京都内の店舗なのに軽の販売比率が50%を超えることもある」という。
これだけ軽のレベルが上がった今、登録車のコンパクトカーを選ぶ優位性はあるのか。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
軽とコンパクトのコスト差は決め手になるほど大きい?
まず、同じ価格帯の軽自動車とコンパクトカーで維持費を比べる。
軽自動車はN-BOXカスタム「G・Lホンダセンシング」(169万8840円)、コンパクトカーはフィット「13G・Lホンダセンシング」(165万3480円)をピックアップしたい。
この2車種で購入後3年間の維持費を比べると、最も差が開くのは税金だ。
N-BOXの軽自動車税は年額1万800円だから、3年間で3万2400円だが、フィットの自動車税は1.3Lでも年額3万4500円になるから3年間で10万3500円に達する。
自動車取得税は、エコカー減税率によっても異なるが、前述のグレードならN-BOXが2万1200円、フィットは3万3000円だ。自動車重量税は、購入時に納める3年分がN-BOXは3700円、フィットは1万6800円になる。
以上の税金を合計すると、N-BOXは5万7300円、フィットは15万3300円だ。税額の違いは3年間で約10万円に達するが、そのほかはあまり差が付かない。
例えば自賠責保険料(37か月)は、軽自動車が3万5610円で、小型/普通車は3万6780円だから以前に比べると差額が縮まった。
理由は軽自動車の保険金支出が増えたためだ。自賠責保険料は基本的に保険収支(保険料収入-保険金支出)のバランスで決まるから、任意保険と同様、事故が増えると保険料も高まる。
このほか軽自動車は、オイルやタイヤの交換費用も安いが、コンパクトカーと比べて大きな差額にはならない。
結局のところ3年間の維持費の差額は、合計して12~13万円だ。1年当たりの金額は約4万円にとどまる。1世帯で4台の車両を保有すれば、年額16万円の違いだが、1台だけなら決定的な差ではないだろう。
しかも、新車価格が150~180万円のN-BOXが国内販売の1位になる現状を考えると、軽自動車はもはや価格と税金の安さを理由で売れているわけではない。税金の安さが付加価値になっても、好調に売れる決め手は機能だ。
今や室内の広さも軽が優位な場合も!!
そこで次は、N-BOXとフィットで車内の作りや走行性能を比べてみたい。
まず居住性は、後席の頭上と足元空間はN-BOXが広いが、フィットでも相応の余裕がある。身長170cmの大人4名がフィットに乗車した場合、後席に座る乗員の頭上空間は握りコブシ1つ弱、足元空間は握りコブシ2つ半に達する。
マツダ3の足元空間は、同様の測り方で握りコブシ1つ半にとどまるから、フィットなら4名で乗車しても快適だ。
シートの座り心地は、N-BOXが少し快適に感じる。現行型になって背もたれと座面に厚みを持たせ、ボリューム感を向上させた。
ただし、室内幅は、軽自動車のN-BOXが1350mm、コンパクトカーのフィットなら1450mmだ。全幅はフィットが220mm広いから、N-BOXの空間効率もかなり高いが、単純に横方向の寸法を比べるとフィットがワイドになる。
荷室容量はN-BOXが大きい。全高はN-BOXがフィットよりも約260mm高く、エンジンも補機類を含めて縦長に設計したから、エンジンルームの寸法を詰められた。
また、全長はフィットが約600mm長いが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)はほぼ同じだ。
フィットも燃料タンクを前席の下に搭載して荷室の床を低く抑え、積載容量に余裕を持たせたが、N-BOXはさらに広い。後席を畳むと大容量の荷室になり、自転車のような大きな荷物も積める。
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