去る2月20日、ロシアのプーチン大統領が北朝鮮の金正恩総書記にロシア製高級車を友好の証としてプレゼントしたと朝鮮中央放送をはじめ各国メディアが報じた。その車種はプーチン大統領が愛用している「アウルス」というクルマだった。謎に包まれたロシア製高級車、そして将軍様の最新クルマ事情に迫る!!
文・写真/有村拓真
ロシアが誇るVIPカー『アウルス』の正体とは!?
『アウルス』は2018年に誕生したアウルスモーターズが販売するロシア製高級車メーカーだ。
1918年に誕生したロシア国営企業のNAMI(中央科学研究自動車および自動車エンジン研究所)に起源とする自動車メーカーである。モデルは現在4種類あり、セダンタイプの『セナート』および『セナートリムジン』、大型バンの『アーセナル』、SUVの『コメンダント』というラインナップだ。
ソ連崩壊後、エリツィン大統領時代よりそれまで使用していたソ連国営企業ZILが製作した専用車の『ZIL-41047』から、新たな大統領専用車としてメルセデスベンツSクラスのプルマン(W140)の導入が始まり、W220、W221のプルマンなどを大統領専用車として使用していたのであった。
しかし、2012年頃よりプーチン大統領による「自国製専用車を開発せよ」という号令の下、NAMIをはじめ国営企業のZILやGAZなどがコンペに参加し、NAMIが製造を勝ち取り現在に至っているというわけだ。
プーチン大統領自ら金正恩総書記などに自国車をアピール
今回贈られたとされる『セナートリムジン』は、昨年9月に金正恩総書記がロシアを訪問した際にプーチン大統領自らがその紹介をしていた。金正恩総書記も後席に座り、興味深くプーチン大統領から説明を受けている映像などが確認できた。
リムジンのスペックは4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンでハイブリット仕様。ポルシェやボッシュも製造計画段階で技術支援を行ったという。全長6620mm、重量は約6トン弱、価格は約83万ドル(日本円で約1億3000万円)で車両製作には約124億ルーブル(約190億円)が投入されたという。
また、2018年10月にロシアのソチを訪問したエジプトのエルシーシ大統領にプーチン大統領自らアウルスセダンのハンドルを握り、周辺を走行するなど、性能のよさを実際に体験してもらうことでトップセールスを行ったこともあった。
アウルスは日本国内を走ったことがあるのだ!!
今回話題となっている『アウルス』は過去に日本でも活躍した機会があった。2019年に開催されたG20大阪サミットの際、プーチン大統領の移動用としてロシアより持ち込んだのである。その際は『アウルスセナート』1台、『リムジン』2台、バンタイプの『アーセナル』2台、合計5台もの『アウルス』が日本に地を踏んだ。さらに当時無線車として活躍したメルセデスベンツVクラスを併せた合計6台が大阪の地を走ったのだ。
このような専用車などを訪問国へ持ち込むのはアメリカと同様だ。ロシアもソ連時代より訪問国へ専用車などを持ち込むのは通例となっている。ロシア大統領の警護車はそれまで専用車と同様にメルセデスベンツで統一されていたが、『アウルス』の導入により基本的にはバトンタッチされている。
このように、ロシア大統領が訪日すれば『アウルス』を日本国内で見ることができるのだが、現状ではロシアによるウクライナへの不条理な戦争により日本も含めた西側諸国とロシアの関係が微妙になっており、今後しばらくはなさそうだ。
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