デカいタブレットをタッチすることが増えたクルマの操作系。この流行に規制がかかるかもしれない。欧州の車両安全評価機関のユーロNCAPが、「物理ボタンに戻すべき」と提言を行ったのだ!
文/ベストカーWeb編集部、写真/VI BILÄGARE、日産、トヨタ、ベストカーWeb編集部
■タッチ式流行の理由はスマート感とコスト
近頃のクルマのお約束ともいえるのが、ダッシュボードに鎮座するデカいタッチスクリーン。エアコンやオーディオ、ナビの操作をすべてこのスクリーンで行うクルマもあるが、反応がイマイチだったり、目的の機能が深い階層にあったりして、使いにくさを覚えることもある。
そんなデバイスがなんでクルマに搭載されるのか。大きな理由は2つある。
ひとつはスマートさを求めるトレンドだ。スマホが普及したいま、ボタンやダイヤルといった物理スイッチはどこか古臭く見える。出来る限りそれらを廃して、モダンなインテリアを作りたいという意図がクルマメーカーにはある。
もうひとつはコストだ。物理スイッチを設けるには、配線やスイッチ類を用意せねばならないうえ、操作を考慮してそれらを配置していかねばならない。
ところがタッチスクリーンなら、ソフトウェアの書き換えのみで事足りる(もちろんエンジニアのコストは発生するが)。スマホの操作でも分かるとおりメニューを階層化していけば、限られた画面上に無限の機能を組み込むことができるのだ。
■物理スイッチの操作スピードはタッチ式の4分の1!
ところが、こうしたタッチスクリーン式の操作に異議を唱える動きが出てきた。
たとえばヒョンデは新型コナの開発に際し、エアコンやオーディオ系の操作にできる限り物理ボタンを残したと明かしている。フォルクスワーゲンはゴルフ8のマイナーチェンジに際し、上位グレードが装備していたステアリングスポーク上のタッチ式スイッチを物理スイッチに戻した。
タッチスイッチの安全性を問う実験も行われている。スウェーデンの自動車雑誌「VI BILÄGARE」は、さまざまな操作系を持つクルマ11台を時速110kmで走らせ、その間にラジオやエアコンを操作する所要時間を計測した。
それによれば、もっとも時間がかかったのは、大型タッチパネルを搭載する「MGマーベルR」というEV。操作に44.6秒を擁し、その間にクルマは1372mも走行した。
対して操作時間がもっとも短かったのが、タッチスクリーンを搭載していないボルボV70。操作は10秒以内で完了し、クルマの走行距離も306mで済んだ。つまりタッチスクリーン式に比べて、物理スイッチのクルマは4分の1以下の時間で操作が完了したことになるのだ。
■クラクションやハザードスイッチは物理スイッチに!
こうなるとお役所も動き出す。もっとも早く動いたのはアメリカだ。NHTSA(運輸省交通安全局が2010年に、「ドライバーが運転中に車道から目を離す時間を一操作あたり2秒以下(累積でも12秒以下)になるようデバイスを設計せよ」という指針を発表している。
この指針自体には罰則がなかったのだが、近年新たな動きが起こった。
欧州で車両の安全性評価などを手がけるユーロNCAPが、2026年1月からの安全評価にウインカー、ハザード、クラクション、ワイパー操作、緊急通報という5つの重要な操作が物理スイッチであるかどうかを、安全性評価の対象にすると明かしたのだ。
今のところ、こうした操作をタッチパネルに集約したクルマはわずかだが、操作系の統合を進めるテスラや一部の中国車などは、対象となってくるかもしれない。
操作に対してかすかな振動を返すハプティクス技術を採用するなど、タッチ式操作系も進化してはいる。将来音声UIがいっそう進化すれば、触るという操作自体が圧倒的に減少するだろう。
クルマは安全が命。ちいさなスイッチひとつだが、危険を招くことだけは避けねばならない。
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