最近のクルマにはほとんど付いてる電動パーキングブレーキやオートブレーキホールド。パーキングに入れたら自動で作動するのでかけ忘れの心配がない点や、渋滞時に加え、ストップアンドゴーが頻繁に起きる街中走行で欠かせない装備だが、ひと昔前までそんな装備はなかった。今回はそんなサイドブレーキの歴史を振り返ってみよう。
文/佐々木 亘、写真:Adobe Stock(トップ画像=Nischaporn@Adobe Stock)
■「サイドを引く」はすでに死語か
1980年代頃まで、パーキングブレーキの主流は、ステッキタイプやレバータイプだった。どちらも手で引くもので、運転席シートの横にあることが多い。
サイドブレーキという通称は、パーキングブレーキレバーの搭載位置から生まれた。
最近では、サイドブレーキを見る機会がほとんどない。現行車ではヤリスとハイエースに乗る時くらいか。
ハイエースに用意されているステッキタイプのパーキングブレーキを、年一回くらい解除したくなる人は、筆者を含め昭和の人間なのだと思う。
MTが主流だったこの時代は、右足はアクセルとブレーキ、左足はクラッチを踏んでいたため、パーキングブレーキを手で操作するほうが運転しやすかった。
この時代を知る人にとって、「サイドブレーキを引く・下ろす」という言葉は当たり前に存在するが、今の免許取りたての若者には通じないこともある。
テクノロジーの進歩とともに、サイドブレーキという表現が消えてしまうのは、少し悲しい。
■足踏みから電動へ! パーキングブレーキ激動の30年
1990年代に入ると、AT車が増えていく。これに伴い、クラッチペダルのあった場所へパーキングブレーキのペダルを用意する足踏み式パーキングブレーキが増えていった。
足踏み式は、前後席間をウォークスルーにする上でも都合がよく、ミニバンの人気を背景にして、一気に普及する。
レバー式と足踏み式が混在していた1990年代後半には、駐車時の手迷子・足迷子が増えていた。
マイカーは足踏み式、会社のクルマはレバー式というケースでは、会社のクルマを駐車する際、マイカーのつもりで左足をペダルに振り下ろすも空振りして恥ずかしい思いをするのが足迷子。
手迷子は、いつもレバー式のクルマに乗っていて、足踏み式に乗り換えた時に、左手でレバーを掴めずオロオロするお父さんのことを指す。
そして現代、パーキングブレーキは引くものでも踏むものでもなくなりつつある。電動化され、スイッチひとつで動させるもの、あるいはギアをPに入れると勝手に作動するものとなった。
この30年余りで、これほどまでに使い方が変わった自動車部品は珍しい。古くから自動車を使い続けてきたユーザーが、付いていけなくなる気持ちもわかる。
■踏んでかける、引いてリリースのパーキングブレーキがカッコよかったぞ
あまり普及しなかったが、バブル経済の真っただなかに流行ったパーキングブレーキのカタチがある。トヨタのクラウン・マークII・カムリなどで採用された、足踏み式パーキングブレーキだ。
今の一般的な足踏み式と違うのは、パーキングブレーキの解除方法である。現在は作動も解除も足踏みが多いのだが、当時クラウン・マークII・カムリに用意されたものは、踏んで作動させ解除はレバーで行うものだった。
解除するレバーはリリースレバーと呼ばれ、メーターから足元へ左手を伸ばしていくと存在する。BRAKE RELEASEと書かれたレバーを引くと、「ガッコン」と音が鳴り、パーキングブレーキが解除されるのだ。
運転席に乗り込み、エンジンをかけ、ギアをDに入れて、リリースレバーを引っ張る。この動きが、幼少期の筆者にはとてもカッコよく見えた。
特にリリースレバーを引っ張る動作と音が好きで、助手席に乗るたびに、父親がリリースレバーを引くのと同時に、グローブボックスのオープンレバーを引いて、運転している気分を味わっていたのを思い出す。
運転動作が簡素化されるのは時代の流れとしてしかたない。電動パーキングブレーキがなければ、停止保持付きのオートクルーズも生まれていないから、この点では技術の進歩に大きく感謝する。
ただ、運転というのはカッコいい所作でもあったはず。何かメカニカルなものを、レバーやスイッチで操作するのが、運転の醍醐味ではないのだろうか。
特にパーキングブレーキをかける動きは、その最たるものだったはず。「ギギギ」という独特の音は、安全に目的についたことを示す、ドライバーを称賛する音だった。
パーキングブレーキが電動からアナログに戻ることはないだろう。ただ、かつての引く・踏む・引っ張るのような動きを、ほかの機器に持たせてくれないものかと、昭和生まれのオジさんドライバーは願ってしまう。
【画像ギャラリー】電動化されたけど、やっぱり引きたい! 引く・踏む・引っ張る? パーキングブレーキの歴史(3枚)画像ギャラリー
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