車の性能や乗り味を大きく左右するのが、ボディや足回り、そしてエンジン。
もちろん、これらのバランスが大切なのだが、最近は特にボディ側の進化が著しく、「車体が良すぎてエンジンが物足りない」と感じてしまう車も少なくなくなってきた。
以下、自動車評論家でレーシングドライバーの松田秀士氏が、レースで経験した“あるエピソード”をきっかけに、エンジンが平凡に感じてしまう、もったいない車を解説する。
文:松田秀士
写真:編集部
筆者がF2、F3000のレースをしていたころの話。
1985~1991年にかけて筆者は全日本F2選手権、全日本F3000選手権(※ともに現在のスーパーフォーミュラの前身)を戦っていた。
その頃はタイヤメーカーが1社独占ではなく、国内3メーカーが鎬を削っていて“予選用タイヤ”なるものが存在。
新品で装着してピットアウトしタイヤをしっかりと温めて、そこからいきなり目一杯アタックしなくてはならず、その性能を使い切るにはコツが必要だった。
500馬力近いエンジンパワーのF3000マシンがタイムを1秒上げようとしたら、約100馬力パワーアップしないと難しいと言われた時代。それがタイヤを履き替えるだけで200~300馬力パワーアップしたのと同じタイムが出せてしまうのだった。
レース用のタイヤだとブレーキ踏んで減速しなくてはならないコーナーも、予選用タイヤなら全開で通過できたり、とにかくすごいタイヤだった。
当時のF1よりも予選用タイヤを履いたF3000マシンの方がコーナリング速度が速かったくらいで、予選用タイヤを履けばF3000マシンのエンジンパワーも大したことない、と感じたほど。
さて、ここから何を伝えたいかというと、現代の車はタイヤもサスペンションも、そしてそれを支えるボディも恐ろしく進化してきている。
そこで、あの頃の予選用タイヤを履いたF3000マシンのように、エンジンパワーよりもクルマ(車体)の方が勝ってしまって、そのせいでエンジンが平凡に感じるモデルを4台、現行モデルのなかから紹介したい。
マツダ MAZDA3「SKYACTIV-Xでもじゃじゃ馬にはならず!?」
まず、最新モデルのマツダ3だ。
フロントにストラット、リアにトーションビームという前輪駆動の5ドアハッチとしてはごく平凡なサスペンション型式。
しかし、最新の考え方でサスペンションの設計変更が施されていて、リアに高級なマルチリンク式サスペンションを採用していた旧型アクセラに比べても高い性能を発揮している。
そのフィーリングは、超高速域でも直進安定性が高く、コーナリングや凸凹路面に対してスムーズにサスペンションが動き、ハンドリングが一発で決まる。
しかも、何にも考えることなくイメージでステアリング操作をすればその通りに曲がってくれるのだ。
FFは操舵輪と駆動輪が同一なのでアンダーステアを発生しやすいが、マツダ3はまったくそのようなことを感じさせずニュートラルなオンザレール感覚。こうなるともっとエンジンパワーがあっても良いような。
搭載エンジンはガソリンでNAの2.0Gと1.8ターボディーゼル。今冬には話題のSKYACTIV-Xも追加されるが(海外試乗済み)、それとてこの抜群なハンドリング性能のマツダ3をじゃじゃ馬にするほどではない。
まぁここまで車体が良いと貧パワーのことはあまり気にならないが。
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