高い安全性を誇るスバルのアイサイト。ステレオカメラによるシステムで、万が一の事故を高い確率で防ぐことができるシステムだ。
スバル自体もその安全性の高さはセールスポイントとしての強みでもあり、従来からの0次安全と呼ばれる見切りのよさなどとプラスして「安全なクルマ作り」を進めている。
しかし一点気になるのが、3ペダルMTへのアイサイトの設定がないということ。たしかにスポーツ走行には不要の装備かもしれないが、スバルの技術なら装着ができないということはないようにも思える。
WRX S4にはあって、WRX STIにはないアイサイト。いったいなぜこのようなことが起こっているのでしょうか?
文:鈴木直也/写真:SUBARU
■被害軽減ブレーキと3ペダルの相性は悪いのか?
いまや新車の7割以上で標準装備となり、2020年からはニューモデルへの装着が義務付けられる予定の自動ブレーキ(正確には衝突被害軽減ブレーキ「AEBS」)。
もはや、付いているのは常識で、その性能の優劣が気になる段階にきたといっても過言ではない。
ところが、この自動ブレーキブームから疎外されているのがスバルのMT車だ。これは「ぶつからないクルマ」で自動ブレーキ普及をリードしたメーカーとして、いささか寂しい現状と言わざるを得ない。
スバルが業界の先陣を切って自動ブレーキを市販化するにあたり、とりあえずAT仕様を優先した事情はわかる。
自動ブレーキが衝突の危険を感知すると、衝突回避のため完全停止まで強いブレーキを維持するが、そういう場合、MTはドライバーがクラッチを切るなりシフトをニュートラルに入れないと、エンストの可能性がある。
まず、これがひとつのリスクとして懸念される。
また、せっかくカメラやレーダーなどのセンサーを付けるなら、それを利用してACC(アダプティブ・クルース・コントロール)やLKS(レーン・キープ・アシスト)も欲しいところだが、これまたMTとは相性が悪い。
いまや、ACCは全車速対応で渋滞追従するのが当たり前で、これは初期のアイサイトではライバルに対する大きな訴求ポイントだった。
ところが、ドライバーが自分でギアポジションを選ぶMTでは、そもそも全車速対応ACCは実現困難。ラクチンに走りたいならATを選ぶわけで、そもそもMT乗りはACCを必要としていない。そういう割り切りもアリだったとはいえる。
自動ブレーキは緊急時になってはじめて「付いてて良かった!」と思える、いわば保険のような機能だが、全車速対応ACCなどは高速の渋滞など日常でも実感できる便利機能。
高価なデバイス(ちょっと前まで、カメラやミリ波レーダーは非常にコストの高い部品だった)を必要とする割には、AT仕様と違って日常性能で付加価値がつけにくい……。
これがアイサイトのMT対応が後回しになっている大きな理由だと思われる。
しかし、この認識はもはや時代の趨勢に遅れをとっていると言わねばならない。
■MT車のライバル勢は被害軽減ブレーキの装着が進んでいる
前述のとおり、自動ブレーキの義務化は時間の問題だし、以下に列記するように他の国産ライバルではMTでも自動ブレーキ装着が当たり前だからだ。
たとえば、トヨタの場合、カローラ・スポーツ1.2ターボ6MTでは、トヨタ・セーフティ・センス2が標準。ACCがブレーキ制御のみとなることと、レーンデパーチャが警告のみになる2点をのぞき、ATとの差をつけてない。
マツダでは、マツダ3はレーンキープアシストを含む自動ブレーキが15Sツーリング6MTでも標準装備。全車速ACCがつかないことだけがハンディキャップ。
ホンダはすごく優秀で、フィット15RSの6MTにはホンダセンシング標準装備。MTだから誤発進防止はないが、これは当然だ。
さらに、S660はホンダセンシング対応車ではないけれど、オプションで「シティブレーキアクティブシステム(低速域のみの自動ブレーキ)」が付く。
また、NVANは軽商用車なのに全車種ホンダセンシング標準で、MTはACCとLKSはつかないものの、衝突防止ブレーキはちゃんと備わっている。
お安いクルマながらスズキもMTの自動ブレーキはちゃんとしていて、スイフトはセーフティパッケージを装着すれば、6MTでも自動ブレーキやもちろんACCも使える。ただし、ACCは全車速対応ではなく40km/hが下限だ。
こうしてみると、MTで自動ブレーキ系にまったく対応していないのは、デビューから10年以上を経過したフェアレディZくらいのもの。
せっかく自動ブレーキの普及を牽引したスバルなのに、WRX STIとBRZをこのまま放置していては、安全を謳うメーカーの信頼に傷がつく。
次のモデルチェンジと言わず、ここは可及的速やかに対応すべきポイントと思うがいかがだろう?
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