信号機のある交差点で、停止線に合わせてクルマを止めたのに、のぞき込まないと信号が見えない、昨今流行の「軽ハイトワゴン」で起きやすい、この現象。
「信号が見えないとか、設計ミスじゃないの!?」という声も聞こえてくるのだが、本当にそうなのだろうか。そして、そもそもなぜこのようなことが起きるのだろうか。日産で車両開発エンジニアをしていた筆者が解説する。
文/吉川賢一
写真/編集部
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■フロントガラスが立ち気味のハイトワゴンで起きやすい
ホンダ N-BOXやダイハツ タント、スズキ スペーシアなどの「軽ハイトワゴン」は、今売れ筋のクルマたちだ。これらのクルマは、多くがフロントウィンドウが運転席から前方遠くにあり、かつ直立気味に立っている。
そのため、白線と信号機との距離が近い小さな交差点では、白線位置でクルマを止めてしまうと、上にある信号を確認しづらくなる。軽ハイトワゴン以外にも、N-BOXスラッシュや、メルセデスのGクラス(ゲレンデヴァーゲン)なども、フロントウインドウが直立気味なために信号機が見えにくく、のぞき込む必要があるそうだ。
しかしこれらはおそらく、ドライバーの体格差や、座り方によって起こっている現象である。背が高い(もしくは座高が高い)ドライバーの場合だと、同じクルマであっても前方上方が見えにくくなりがちだし、背もたれを寝かせ気味で運転するドライバーの場合だと、頭の位置がさらにクルマの後方になるため、信号が見えにくくなったりもする。
信号が見えにくいクルマがあるのは確かにそうだが、ひとえに「設計が悪い」とは言い切れないのだ。
■メーカーはこのことを知っている? そういったチェックはあるのか?
自動車メーカーは、こうしたユーザーの声は、もちろん把握している。把握していながら、それらの意見を取り入れて設計変更しないのは、「今の車両設計でよい」と判断しているからだ。
自動車メーカーには、車両のパッケージングを考える「車両計画」チームが必ず存在する。車両のボディサイズや、運転席・助手席の前後左右の位置や高さ、後席乗員の位置、また、エンジンやサスペンション、部品の配置など、限りある車両スペースの中に、効率よくパッケージングするのかが「車両計画チーム」のタスクだ。
そのなかでも、ドライバーの視界に関するレイアウトは、最優先で設計される項目である。
車両計画チームは、ドライバーの目の位置(アイポイント)がどこにくるのかを重要視しており、運転席で正しいドライビングポジションをとった平均体型のドライバーが、道路交通法で定められた5.5メートルの高さにある信号機を確認できるよう、ルーフの前端部位置を決めている。
これは言い換えれば「ドライバーの体格が大幅に平均からかけ離れていたり、またはドライバーが正しいドラポジをとっていなければ、場合によっては見えないこともあり得る」ということだ。
自動車メーカーは設計する際、グローバルで販売するクルマの場合は、日本車メーカーであっても、米国人体格のAM50(175cm、78kg)で設計する、というワールドルールに従っていることが多い。
逆に、日本国内にのみ販売する軽自動車やミニバンの場合だと、日本人体格のJM50(165cm、65kg)に合わせている。もちろんある程度、前後しても支障がないようには設計されている。
また、どの自動車メーカーでも、テストコースを所有しており、その中には市街地を模したコースが大抵ある。そこでは、交差点でのストップアンドゴーの試験や、運転席からの視界のよさ、周囲の安全確認のやりやすさなど、それはそれは細かくチェックし、確認をしている。
当然「ドライバーの体格や、ドラポジによっては見えづらくなることもある」というのは、想定しているだろう。しかし、そのうえでOKと判断し、世のなかに出しているのだ。
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