NSXといえば「和製スーパーカー」として多くの日本のクルマ好きは誇りに思ったものだが、二代目はアメリカで生産されている。
初代には鋭いハンドリングやタイプRなど逸話は多いものの、二代目はどうもピンと来ない人も多いだろう。ハイブリッドになり安全に楽しめるスーパーカー。この方向性は世界基準だから正しい。
しかしかつてのNSXのように心を揺さぶる何かがないのもたしかだ。2018年10月にNSXはマイナーチェンジを迎え、開発責任者は日本人にバトンタッチ。
かつてスーパーGT GT300でNSXを駆った理論派ドライバー山野哲也氏がインプレッション。初期型の厳しいインプレッションからの変化はあったのだろうか?
文:山野哲也/写真:奥隅圭之
ベストカー2019年1月10日号
■「操作に対する”時差”が非常に小さくなっている」
結論から言うと、ホンダは短時間のうちによく頑張ったと思う。走り始めてすぐに「初期モデルとは全然違う」とわかるほどの進化を感じた。
ひと言で表現すれば「ピンと張られた綱引きの綱」。
誰も引っ張っていない綱はダラリとしているが、両側から力一杯引っ張られた綱はピンと張り詰めて剛体のような状態になる。まさに新型NSXのボディやシャシーから受ける印象はこの状態。
ドライバーにとって「時差」はものすごく敏感に感じ取れるもの。操作に対する「時差」、つまり遅れは違和感になり、レベルの高いドライビングは正確なマシンコントロールの邪魔になる。
また、この「時差」が一定ならばまだいいが、初期型NSXでは操舵に対するノーズの反応、ロールに対する接地変化の動き方、アクセルに対するトラクションの掛かり方など、ドライバーの操作項目によって「時差」にバラツキがあったため、ハイスピードでのマシンコントロールでは思いどおりに動かしにくい場面もあったのだ。
ところが今回試乗した新型では、この「時差」が非常に小さくなっているのと同時に、各部の動きが一直線に感じられるため、操作に対するクルマの反応が「思いどおり」になっていて、安心してクルマを自分のコントロール下に置くことができる。
例えばコーナリングシーン。旧型ではタイヤが曲がり、ロールしてからノーズが入って行く印象だったものが、新型ではステアリングを操作すると瞬時にノーズが向きを変える、そんな動き方に変わっている。
ドライバーの操作に対し、クルマの反応がダイレクトで、しかもその動き方に変化がないので、その先の動きを予測して走らせることができ、それが安心感や信頼感に繫がるのだ。
■「栃木には初代NSXを作り上げて進化させてきた知見がある」
今回のビッグチェンジでは開発の主体がアメリカから栃木の研究所にバトンタッチされた。開発リーダーはダイナミック性能を専門とする水上聡LPLが初期型開発LPLのテッドさんから受け継いだ。
僕は「アメリカだから」とか「やはり日本人が……」といったものの見方は好きではないし、まったく意味のないことだと思っている。
しかし、栃木の研究所には初代NSXを作り上げて進化させてきたという知見がある。特にスポーツカーは細かい進化を繰り返しながら完成度を高めていくものだ。
この点において、オハイオのスタッフよりも日本の、栃木の開発スタッフのほうが経験値が多く、今回のリファインには適任だったのだろうとの推測は成り立つ。
一方で今回の改良ですべてのネガが払拭されたかというと、まだまだ手を入れてほしいところはある。ハードブレーキングをした際に「ダダダダダ」とジャダーのような動きを見せる場面がある。
接地変化が発生し、とても微細ではあるのだがタイヤが路面から浮いてしまうため前述のような動きになってしまう。
初期型ではこれがもっと大きく顕著だったものがずいぶんと抑えられてはいるものの、まだ発生している。
おそらく、アーム類の余計な動きが原因だと思われるのだが、これを完全に収めるためには取り付け部の形状を変更するとか、アーム長を変更するなど、根本的な設計変更を伴う改良が必要となる。
かなり大がかりなものとなるが、今後の課題。NSXのようなクルマは長く作り続けるクルマなので、時間をかけて完成度を高めていってほしい。
【NSXマイナーチェンジでのシャシー性能変更内容】
・タイヤに専用開発「コンチネンタル スポーツコンタクト6」を採用
・フロントスタビライザー26%強化
・リアスタビライザー19%強化
・リアコントロールアームブッシュ21%強化
・リアハブ6%強化
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