今密かに注目されている天然水素は、自給率が低い日本のエネルギーの切り札になるかもしれない。この夢のような話を確かめるために、日本で唯一天然水素が湧き出ている長野県白馬村へ。水素で走るクラウンFCEVを旅のお供に迎え入れて調査を行った。
文:ベストカー編集部 鈴村朋己/写真:望月勇輝
【画像ギャラリー】バイトーンカラーと雪景色の相性が抜群!! インパネもシックなクラウン Z “THE 70th”をじっくり!!(25枚)画像ギャラリー日本の歴史を変えるかもしれない新エネルギーが日本に眠る
日本のエネルギー問題は、今、重大な分岐点に立っている。国内のエネルギー自給率はわずか10%台。この状況が長く続いたことで、私たちはその不自由さを「仕方のない日常」として受け入れてしまってはいないだろうか。
だが、その静かな停滞を打ち破る希望の光が、今、足元の深淵から産声を上げようとしている。その正体は「天然水素」。地球という巨大なプラントが、数億年の歳月をかけて密かに精製し続けてきた、母なる大地からの贈り物である。
天然水素は、これまでの水素社会の常識を根底から変える可能性を秘めている。従来の水素は、化石燃料から抽出する際にCO2を排出する「グレー水素」が主流だった。
対して、天然水素は「ホワイト水素」とも呼ばれる。地中で自然に生成されるため、製造のための膨大なエネルギーを必要としない。その存在は、エネルギーの概念を覆す可能性を秘めているのだ
その生成プロセスは神秘的だ。地下深く、鉄分を豊富に含む「かんらん岩」などの岩石が水と反応し、表面に蛇の皮のような紋様を持つ蛇紋岩へと変質していく。
このダイナミックな地球の営みの過程で、水分子から酸素が奪われ、純粋な水素が解き放たれるのである。
驚くべきことに、この天然水素が、ここ日本の長野県白馬村で確認されている。現在は温泉と共に湧き出しており、将来的なエネルギー源としての研究も進められているという。
もしこれが実用化されれば、日本における「エネルギー革命」の号砲となるかもしれない。このワクワクするような夢の現在地を確かめるため、私は白馬村へと向かう決断を下した。
相棒は、未来を駆ける「クラウンFCEV」
せっかくの水素取材。ならば、自らも水素のリアルを体感しながら進むべきではないか。そう考え、私はクラウンFCEVを旅の相棒に迎え入れた。仕様は2025年に誕生70周年を記念して設定された特別仕様車のZ “THE 70th”である。
ボディカラーは、クラウンの歴史を継承するバイトーンの意匠を採用。試乗車はプレシャスメタル×プレシャスホワイトパールの組み合わせで、非常にシックでエモーショナルな佇まいだ。インテリアに目を向けると、シフトノブは70thロゴ入り。ドライバーの気持ちを昂らせる特別な装備に胸が熱くなる。
水素を源とするこのセダンは、日本の技術の結晶だ。排出するのは水だけで、走行中にはCO2を一切出さない。エネルギー自給の夢を託す天然水素の調査に向かうには、これ以上ふさわしいパートナーはいないだろう。
東京から白馬村までは、片道およそ300km弱。出発前、近くの水素ステーションでタンクを満タンにする。わずか数分で完了するスマートな充填作業は、ガソリン車と何ら変わりない。
静かなステーションから始まる旅が、いつか日本の「当たり前」に変わるかもしれない。そんな予感を胸に、私はイグニッションをオンにした。
静寂と上質。クラウンが教える「移動の歓び」

ルートは中央自動車道から長野自動車道へと抜ける高速メインの道のり。ここでクラウンFCEVは、その真価を鮮明に描き出した。
モーター駆動らしい鋭いレスポンスを備えつつも、唐突な加速感はなく、どこまでも滑らかで品格のある加速。背中を押し出す力強さは「頼もしさ」そのものであり、高級セダンらしい重厚感と上質さが同居している。
遮音性に優れた室内は、高速域でも風切り音を遠ざけ、まるでリビングルームがそのまま移動しているかのような錯覚さえ覚える。
時代と共に変化を遂げてきたクラウンだが、初代から続く「至高の移動体験」という哲学は、この最新の水素セダンにも色濃く継承されていた。
旅の途上、気になる「燃費(水素消費効率)」についても検証してみた。成人男性2名とスーツケース2つを積み、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を使って一定速度で走行。エアコンの有無による変化を確かめた。
まずはエアコンを使用しない状態で走行した。航続距離の表示は、慎重に様子を見るようにゆるやかに減っていく。結果、平均燃費は101km/kgだった。
続いてエアコンをON。設定温度は25℃とし、オートボタンを押すと車内はすぐに快適な状態になる。一方で、エアコンの作動により航続可能距離の表示は約40km減少した。数値の変化が目に見える分、運転中は意識させられる場面もある。
エアコンを使用すると車内は暖かく保たれる反面、航続距離の表示が減っていくペースは、未使用時より明らかに速い。メーターを確認すると、平均燃費は71km/kg。未使用時と比べて約30km/kgの差が出た。
出発時に満タンに補給しているため、燃料切れを心配する状況ではない。ただし、航続距離の表示が変化しやすいことを踏まえると、空調使用時は残量に少し余裕を持って走ると安心だろう。
一見すると数字の減少にドキドキするかもしれないが、そこは「知的な旅」の醍醐味だ。クラウンには、エネルギー消費を抑えつつ快適さを保つ「シートヒーター」が標準装備されている。
スイッチを入れれば、わずか3分ほどで人肌の温もりが身体を包み込む。真冬の旅路においても、この機能を賢く組み合わせることで、航続距離への不安を解消しながら、極上のコンフォート空間を維持できるのだ。
白馬の絶景、そして「見えない黄金」の予感
検証を重ねるうちに、車窓は白銀の衣を纏った北アルプスの山並みへと変わっていった。白馬村に到着した私を迎えてくれたのは、凛として澄み渡る絶景だ。
ドアを開けた瞬間、肺を満たす空気の清冽さに驚く。都内の喧騒とは無縁の、研ぎ澄まされた冷気。目に入ることさえ心地よい。
この美しき大地の数千メートル下で、今この瞬間も「エネルギー革命」が胎動している。そう思うだけで、胸の高鳴りは止まらない。
だが、現実は時に静かだ。地元の拠点である「道の駅 白馬」で話を伺うと、長年この地に住む方々からも「天然水素については、まだあまり詳しく知らない」という声が聞かれた。
世界を変える可能性が足元にあるという事実は、まだ「知る人ぞ知る」希望の段階なのかもしれない。
しかし、落胆する必要はない。生活に溶け込んでいないということは、それだけこの資源がピュアな状態で守られてきた証でもある。何より、ここには確かな「証拠」がある。日本で唯一、源泉から天然水素が直接湧き出している特別な場所、「白馬八方温泉」だ。
そこへ行けば、夢のヒントを掴めるはずだ。地球が自ら作り出した水素の温もりに触れることで、私の抱いている期待は、確信へと変わるに違いない。
天然水素という名の、目に見えない黄金。その熱量を肌で感じるための旅は、いよいよ核心へと突き進む。
果たして、湯けむりの向こうに日本の未来は見えたのか。その続きは、後編でお会いしよう。





































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