ドイツの大手商用車メーカー・MANトラック&バスは、オープンソースコミュニティのために自動運転トラックのセンサー・走行データを公開した。
自動運転の実用化に不可欠とされるAI(人工知能)の開発には大規模なデータセットが必要となるが、大型商用車のデータが一般公開されるのは世界で初めて。
公開データセットを利用することで大型車用AIのパフォーマンスの評価・比較が容易となり、自動運転トラックの開発が加速されるという。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
画像/MAN Truck & Bus
自由にアクセス可能なセンサー&走行データを公開
フォルクスワーゲンの商用車部門であるトレイトングループに属するドイツの大手商用車メーカー・MANトラック&バスは自動運転トラックのセンサー&車両データを一般公開した。
AI(人工知能)や自動運転システムの開発には大規模なデータセットが必要とされる。トラックメーカーが外部開発者などオープンソースコミュニティにこうしたデータを提供するのは世界で初めてだという。
747の運転シーンからなる「MANトラックシーン」データセットは、MANが自動運転トラックの開発を通じて得たものだが、外部の開発者も無料で自由に利用可能となった。MANとしては自動運転システムの検証を簡素化し、標準化を推進することで開発を加速する狙いがある。
データのライセンスはクリエイティブ・コモンズの「CC BY-NC-SA 4.0」(クレジット表示・非営利・継承)となっており、クレジットを表示し、非商用目的である場合に限り、元のライセンスと同じ条件で改変・再配布も可能だ。
他のトラックメーカーや大学などの研究機関、独立したソフトウェア開発者などが自由にアクセスできる無料のデータセットを公開することでデータ形式の標準化が促されるほか、結果と手法の科学的な比較が可能になり、メーカーと外部開発者とのコラボレーションが簡単になるというメリットもある。
同社で研究開発部門を率いるフレデリック・ゾーム博士によると、乗用車ではこうした大規模データセットが数多く公開されているが大型トラックにはなかったそうで、乗用車とは相応に異なるトラックという車両において、そのギャップを埋めるものになるという。
「ハブ間輸送」自動化のための開発基盤となる?
今回、MANが公開したデータセットは、主にドイツの高速道路と、そこに接続する路線、および物流ターミナルでのセミトレーラ連結車の運転データとなる。つまり大規模物流拠点(物流ハブ)を結ぶ、いわゆる「ハブ間輸送」(幹線輸送)をカバーするためのデータだ。
センサー類のデータは、4台のカメラと6台のLiDAR(レンジ200メートルの長距離LiDARが2台、同35メートルの近接LiDARが4台)、6台のレーダー、周囲の空間における位置を決定するための慣性測定装置(IMU)が2台、高精度の全球測位衛星システム(GNSS)1台によるもの。
360度の全周をカバーする4Dレーダーデータが公開されるのは初めてで、過去最大規模のアノテーション(注釈)付き3次元空間データセットとなる。
747のシーンを作成する際、さまざまな気象条件を含むように注意したといい、シーンは、学習/テスト/検証用のデータセットに分かれている。
一連の運転シーケンスに関するセンサー・車両データには、対応するアノテーションを手動で付した。アノテーションは環境条件や車両周囲にマークされた物体など運転状況の説明として機能し、ニューラルネットワークによる人工知能(AI)を開発する際の基礎となる。
このような公開データセットを用いてAIをトレーニングすることで、トラック運転用AIのパフォーマンスと品質を標準化された方法で評価でき、継続的な改善・追跡がしやすくなるという。