「弱きを助け強きを挫く」公正取引委員会の独禁法とも連携
また、荷主・元請の行為が独占禁止法違反の疑いがある場合は、公正取引委員会へ通知も行なうという。
公正取引委員会が執行する独占禁止法には、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用を摘発する項目があり、排除措置命令・課徴金納付命令といった行政処分を行なったり、さらに悪質重大な場合は刑事処分を求めて検事総長に告発を行なうことも可能だ。
また、独占禁止法の関連法として「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)があり、いわゆる「買いたたき」など親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用を禁止している。
買いたたきの定義は複雑なところもあったが、価格転嫁を円滑化するために解釈の明確化が行なわれた。
例えば、運送業においてエネルギー価格の上昇分を取引価格に反映する必要があるにも関わらず、協議することなく運賃を据え置いたり、価格転嫁を認めない理由を回答せずに従来通りの価格を据え置くことは買いたたきに当たり、独禁法・下請法違反となるおそれがある。
違反した事業者は併せて貨物自動車運送事業法による荷主・元請事業者等への働きかけの対象となる。
実際に公正取引委員会は、価格交渉を行なわないなど買いたたきに該当するおそれのある行為が見られた事業者名を公表する異例の措置に踏み切った。公表された企業・団体には佐川急便やデンソー、JA全農など大手の荷主や元請会社が含まれていた。
貨物自動車運送事業法における「改善要請」の実施事例
では、荷主や元請に対する改善の「働きかけ」や「要請」の実施事例を見ていこう。
まず今年5月に四国運輸局管内で製造業の発荷主に実施された「長時間の荷待ち」に対する改善要請である。
相談者からの申告内容は「待ち時間が長く、待たされることが多い」というもの。午前10時に受付をして5時間待たされ、ようやく積み込みの連絡が来たという。
これを受けてヒアリングを実施し、事実を確認。改善要請に対し、「在庫管理の見直しによる積み込み箇所の削減・集約」「積み込み時間の指定、明確化」「パレット輸送の導入拡大、荷役・倉庫人員の増員」などの対策を実施した。
次に昨年11月の近畿運輸局管内の運送業の元請に対して行なわれたのは「過積載運行の指示」に対する改善要請だ。
これは、過積載とわかっていながらトラックに荷物を積むように強要。過積載である旨を忠告しても聞いてもらえないというもの。申告内容の事実確認とともに、当該の元請は、違反原因行為の防止のため全社レベルの対策強化に着手したという。
さらに関東運輸局管内で元請による「無理な配送事例」の申告があった。これは、積み込み時間が遅いため、「納品日を遅くしてほしい」と申し入れても聞いてもらえない。さらに深夜や日付が変わってから荷渡しすることもあるのだが、それでも納品時間・必着は変えてくれなかったという。
そこで今年5月に事実確認とともに改善の働きかけを実施。元請は改善計画の作成と取り組みに着手した。
しかし、「働きかけ」後も同種の違反原因行為に関する申告が短期間に複数件寄せられたため、7月には一段強い「要請」を実施。この結果、元請は改善計画の見直し(取り組み内容の充実等)と対策のスピードアップに着手したという。
なお、7月31日の時点で、改善の働きかけ等を実施した荷主・元請数は、「働きかけ」85件、「要請」5件である。
まだまだ件数が少なく、この件数だけ見れば実効性があるとは言えないと思うが、ほとんどの荷主・元請が「働きかけ」の段階で改善に着手。「要請」や「勧告・公表」に至っていないことは、この制度が有効に機能することを示していると思う。
まして7月21日からトラックGメンとして、人員や地方運輸局の体制が強化されたことで、本領を発揮するのはこれからと言えるのではないか。
こういった行政の動きに対して、トラックドライバーや運送事業者の中には、「お上のやることなんか、どうせ何の役にも立たない」「現場のことなんか何も知らないのに、トンチンカンなことやっている」というネガティブな意見もあると思う。
あるいは、荷主や元請の現場での「悪行」をドライバーが会社に報告しても、会社がうやむやにするケースもあるかもしれない。
しかし、荷主や元請の「優越的地位の濫用」に対して何もアクションを起こさず、ただただ皮肉めいた愚痴を言っているだけでは、それは負け犬の遠吠えと一緒ではないか?
お上が現場を知らなかったら、教えてやればいいのだ。たとえば荷物の斡旋をして中抜きをする「水屋」の悪行も、トラックGメンのターゲットにしてもらったっていい。
要するに、トラックドライバーや中小零細の運送事業者が正当な権利をつかむためには、受け身の立場、待ちの姿勢を脱して、自ら動かなければならない。そのとき強い味方になるのがトラックGメンなのである。