トラック等のディーゼル車に排ガス後処理装置が備わるようになって久しいが、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)搭載車でたびたび問題となっているのがフィルターの目詰まり。DPF洗浄では修復できない目詰まりを起こすと、100万円ともいわれる交換費用が発生するケースもある。
こうした目詰まりに影響を及ぼしているのがエンジンオイル由来の灰分=アッシュだとされる。出光興産はその灰を出さないトラック・バス用エンジンオイル「idemitsu AshFree」(以下アッシュフリー)を2022年9月より販売している。あらためてアッシュフリーとはどんなエンジンオイルなのか? 紹介していこう。
文/フルロード編集部、写真・図/出光興産・フルロード編集部
DPFとエンジンオイル
DPFは網目状のセラミック素材のフィルターにディーゼルエンジンから排出される有害物質(煤=PM)を定着させ、エンジンの熱を利用して燃焼(再生)させてクリーンな排ガスとして放出するための後処理装置の1つ。
厳しい排ガス規制が敷かれる今日のディーゼル車では必須の装置となったが、DPFの「手動再生」によって拘束される時間は15〜40分ほどを要し、時間に追われるトラックドライバー等にとって煩わしい存在にもなっている。
また車両トラブルとしてDPFの目詰まりも問題視される。DPFが詰まるとエンジン出力が著しく制限され整備工場へ直行する事態となり、車両の稼働が止まるだけではなく、修理費用も高額となるケースがある。
こうしたDPFの目詰まりに影響を及ぼしているのがエンジンオイルに配合される添加剤だ。
「再生」によって煤(燃料等の不完全燃焼によって発生)は再燃焼できるが、エンジンオイルに配合される金属添加剤由来の灰分は燃焼できず堆積。
灰分が蓄積されると煤が溜まりやすくなり、再生のスパンが短くなったり、頻繁に目詰まりを引き起こすといった悪影響を及ぼすようになっていく。
出光興産のアッシュフリーとは?
こうしたトラブルを減らすため、トラック・バスのDPF搭載エンジン用に硫酸灰分(金属分)1.0±0.1等を定めたJASO「DH-2」というオイル規格が2003年に導入され、現在は国産トラック・バスの多くに同規格のオイルの使用が推奨されている。
DH-2規格は従来規格(DH-1)と比べてDPFトラブルを起こしにくいオイルではあるが、金属添加剤の量を減らしただけなので灰分は堆積していく。
いっぽう出光興産が2022年9月より販売開始した「アッシュフリー」は、金属添加剤を一切使用していないエンジンオイルで、その名が示す通り目詰まりの要因となるアッシュ(灰)の排出はゼロ。
また煤の発生も低減させるので再生頻度も少なくなる革新的ともいえる無リン無灰ディーゼルエンジンオイルである。
そもそも金属添加剤は清浄剤/耐摩耗剤としての役割を持つものだが、アッシュフリーは出光独自の添加剤を配合することで同様の性質をクリアした上、性能試験においては同社のDH-2規格オイルより高いピストン清浄性、動弁系摩耗性が証明されている。
さらに出光の再生頻度テストよれば、自社DH-2オイルを使用した場合、3.5日に一度DPFの「手動再生」が発生したが、アッシュフリーでは14日に一度の再生と、1/4に低減。これは年間の待ち時間で試算するとDH-2が48時間、アッシュフリーでは12時間になる計算だ。
そんなアッシュフリーは、粘度グレードが10W-30で、価格は20リットル缶で1200円/L(税抜)、ドラム缶で1000円/L(税抜)、オイル交換の目安は25000kmほど。
通常のエンジンオイルと比べ値段は倍高く交換頻度も若干多くなるが、それでもDPF整備にかかる費用をほぼゼロにし、再生のスパンも大幅に減らすことができるアッシュフリーは、トータルコストや労働時間削減の観点でみれば大きなメリットになり得るのではないだろうか。
なお、アッシュフリーはJASO DH-2規格で制定されているエンジン試験をすべてクリアしているが、同規格より低い塩基価、硫酸灰分となるため規格適合はしていない。
またアッシュフリーはDH-2相当のトラック・バスのディーゼルエンジン用であり、DL-1相当の乗用車ディーゼルエンジン用オイルとしては推奨していないので注意が必要だ。
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